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第16話 文化祭の戦い、そして——

文化祭当日。


朝から大勢の来場者で、学校は賑わっていた。廃墟写真部の展示室にも、次々と人が訪れる。


「すごい人気ですね!」美咲ちゃんが嬉しそうに言う。「みんな、《写し世》の写真に惹かれてるんだ」セピアが分析する。


確かに、立ち止まる人が多いのは特別展示コーナー。普通の人には幻想的な作品に見えるけど、心のどこかで「本物」を感じ取っているのかもしれない。


「異常なし」立花先輩が巡回から戻ってくる。「今のところ、怪しい動きはない」「油断は禁物よ」レンズが窓の外を警戒する。


ミルはデータを監視しながら、来場者の対応もこなしている。


「この写真、どうやって撮ったんですか?」「企業秘密です!」


なんて答えて、相手を笑わせている。ミルも成長したなあ。


午後になって、異変が起きた。


「来ました」立花先輩の瞳が鋭くなる。


展示室に入ってきたのは、一見普通の来場者たち。でも、その瞳に宿る光が違う。


「《奪し手》……」


5人組。リーダーらしき男が、特別展示コーナーに近づく。


「素晴らしい作品ですね」


男が私に話しかけてくる。


「ありがとうございます」「特に、この『崩壊する世界』という作品。まるで本物の《写し世》を見ているようだ」


心臓が跳ねる。やっぱり、気づいている。


「あなたが新しい《写し手》ね」


男がにやりと笑う。


「ここで騒ぎは起こしたくない。大人しくカメラを渡しなさい」


「断る」


すると男の仲間が、来場者に紛れて配置についた。


「この部屋には50人以上の来場者がいる」男が脅す。「彼らの記録を奪うのは簡単だ」


「卑怯な……」


人質を取るなんて。


でも、その時。


「すみません、写真撮ってもいいですか?」


美咲ちゃんが男に近づいた。手にはスマホ。


「美咲ちゃん、危ない!」


でも遅かった。美咲ちゃんがシャッターを切った瞬間——


「なっ!?」


男の体が一瞬固まる。まるで、私の瞬間凍結みたいに。


「今です!」立花先輩が叫ぶ。


一斉に動く。ミルのフォトグラメトリが敵を捕らえ、レンズの永遠固定が動きを封じる。


「くそっ!」


でも、敵も簡単にはやられない。記録を盗む力を解放し始めた。


来場者たちがふらつき始める。記録を奪われかけているんだ。


「みんなを守らなきゃ!」


私はカメラを構える。でも、どう撮ればいい?


その時、美咲ちゃんが言った。


「部長、みんなの笑顔を撮って!」


「笑顔?」「楽しい記録は、簡単には奪えないはずです!」


なるほど!


「みなさん!」私は大声で呼びかける。「記念撮影しませんか? 文化祭の思い出に!」


戸惑っていた来場者たちが、少しずつ笑顔になる。


「いいですね!」「撮って撮って!」


みんなでポーズを取る。その瞬間を——


カシャリ!


瞬間保護モーメント・プロテクト!」


私の新しい技。撮影した瞬間の記録を、強力に保護する。


「ぐあっ!」


記録を奪おうとしていた男たちが苦しむ。守られた記録に、手が出せない。


「今だ!」


セピアが動く。記録の力で、奪し手たちを包み込む。


「君たちも、誰かの大切な記録のはず」


優しい光に包まれて、男たちの表情が変わっていく。


「俺たちは……何を……」「思い出して」セピアが語りかける。「なぜ記録を求めたのか」


男たちの瞳に、涙が浮かぶ。


「俺は……家族の記録を失って……」「だから、取り戻したくて……」


なるほど、彼らも被害者だったのか。


「でも、他人から奪うのは間違ってる」立花先輩が厳しく言う。「新しい記録を作ればいい」レンズが付け加える。


男たちは項垂れて、大人しくなった。


「すみませんでした……」


騒動が収まって、来場者たちは何事もなかったように展示を楽しんでいる。記憶操作ではない。ただ、「楽しい文化祭の一幕」として記録されただけ。


「美咲ちゃん、すごかった!」「えへへ」美咲ちゃんが照れる。「なんか、体が勝手に動いちゃって」「才能あるかも」ミルが真剣に言う。「もしかしたら、美咲さんも——」


「それは、また今度」


今は文化祭を楽しもう。


展示は大成功。『記録と記憶の狭間』は最優秀賞を受賞した。


「やった!」「みんなのおかげです」


表彰式で、校長先生が言った。


「素晴らしい作品でした。まるで、別の世界を覗いているような」


まさにその通りなんですけどね。


夕方、片付けをしていると、さっきの男がやってきた。


「あの……お礼を言いたくて」


「お礼?」「目を覚まさせてくれて、ありがとうございました」


男は深々と頭を下げる。


「これからは、正しい方法で記録と向き合います」


「頑張って」


男が去った後、立花先輩が言った。


「《奪し手》は、まだ他にもいる。今回は一部に過ぎない」


「でも、一人でも改心してくれたなら」セピアが優しく微笑む。「そうね」私も頷く。「少しずつでも、世界は変えられる」


打ち上げは、部室でささやかに。


「かんぱーい!」「お疲れさま!」


ジュースで乾杯。お菓子を食べながら、今日の出来事を振り返る。


「美咲ちゃん、本当にすごかった」「そんな……」「あのシャッター、タイミング完璧だったよ」レンズも褒める。


美咲ちゃんの才能は本物かもしれない。いずれ、すべてを話す時が来るだろう。


「ところで」立花先輩が切り出す。「卒業したら、どうするの?」


そうだ。先輩は今年で卒業。


「大学でも、この活動を続けるつもり」先輩が微笑む。「《視し手》として、できることをしたい」


「寂しくなります」ミルがしんみりする。「大丈夫。繋がりは消えないから」


その言葉に、みんなが頷く。


夜遅く、部室を出る時。


ミルが私の袖を引っ張った。


「ユイ、ちょっと」「どうしたの?」「実は……告白されました」


「え!?」


「文化祭で対応してたら、優しいって勘違いされて……」


ミルが困った顔をしている。


「で、どう答えたの?」「ごめんなさいって」「即答!?」「だって、私にはもう大切な人たちがいるから」


ミルが私とセピアを見る。


「恋愛とか、よく分からないけど。でも、ユイとセピア様以上に大切な人なんて、いません」


「ミル……」「だから、ずっと一緒にいてください」「もちろん」


セピアも優しく頷く。


「ずっと一緒だよ」


三人で手を繋いで、夜道を歩く。


文化祭は終わった。でも、私たちの物語はまだまだ続く。


新しい仲間も増えて、世界はもっと広がっていく。


《写し世》と現実世界。


二つの世界を守りながら、普通の高校生活も楽しむ。


それが、私たちの日常。


特別で、かけがえのない毎日。


明日も、きっと何かが起きる。


でも大丈夫。


みんながいるから。

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