第15話 文化祭と新たな仲間
文化祭まであと一週間!
部室で美咲ちゃんが気合を入れている。廃墟写真部として初めての大型展示。みんな準備に追われていた。
「展示する写真、もう決めた?」ミルが聞く。「うーん、まだ悩んでる」
机の上には、現実世界で撮った写真がたくさん。でも、本当に展示したいのは《写し世》の写真だった。
「これとか、どうですか?」
セピアが一枚の写真を手に取る。廃工場で撮った、光と影のコントラストが美しい作品。
「いいけど、なんか物足りない……」
その時、ドアがノックされた。
「失礼します」
入ってきたのは、生徒会長の立花先輩だった。きりっとした黒髪に、知的な眼鏡。学校一の優等生。
「海野さん、ちょっといい?」
「は、はい」
なんで生徒会長が?
「実は、廃墟写真部の展示を楽しみにしているの」立花先輩が微笑む。「特に、最近の作品の『虹色の光』」
虹色の光——まさか、あの時の写真?
「あの写真、どこで撮ったの? 技術的にありえない光の屈折をしていて……」
立花先輩の瞳が、真剣に私を見つめる。
「もしかして、あなたたち——」
言いかけた時、部室の空気が変わった。
《写し世》の気配がする。
「!」
ミルとセピアも気づいた。まさか、ここで境界が——
「やっぱり」
立花先輩が眼鏡を外す。すると、瞳に見覚えのある光が宿った。
記録を視る者の瞳だ。
「あなたも!?」「ええ。《視し手》の家系なの」立花先輩が説明する。「《写し世》は見えるけど、干渉はできない。でも最近、境界が薄くなってきて……」
美咲ちゃんは、状況を理解しようと、じっと私たちを見ている。
「立花先輩、その話は——」「大丈夫」先輩が優しく微笑む。「私は敵じゃない。むしろ、協力したい」
「協力?」「文化祭で、本物を展示しましょう」「本物って……」「《写し世》の写真よ」
私たちは顔を見合わせた。そんなことして大丈夫?
「心配しないで」立花先輩が続ける。「見る人が見れば分かる。でも、普通の人には美しい芸術作品にしか見えない」
確かに、美咲ちゃんも虹色の写真を「きれい」としか感じていなかった。
「それに」先輩の表情が真剣になる。「最近、おかしな動きがあるの」
「おかしな動き?」「《写し世》の存在を、悪用しようとする者たち」
また新たな敵が?
「詳しくは後で。今は、文化祭の準備を優先しましょう」
こうして、立花先輩も仲間に加わった。
「じゃあ、特別展示コーナーを作りましょう」私は提案する。「賛成!」ミルが張り切る。
準備は急ピッチで進んだ。立花先輩の生徒会権限で、大きなスペースを確保。
「ここに、《写し世》シリーズを」「でも、説明はどうする?」セピアが心配する。「『記録と記憶の狭間』というテーマで」立花先輩が提案。「芸術的な解釈として展示すれば」
なるほど、それなら不自然じゃない。
作業をしていると、また来客が。
「やっほー! 遊びに来たよ!」「レンズ!?」
なんと、南米から帰ってきたレンズが立っていた。
「文化祭って聞いて、飛んで帰ってきちゃった」「南米の《写し世》は?」「なんとか安定したよ。それより」
レンズが立花先輩を見る。
「《視し手》の血筋ね。珍しい」「あなたは、もう一人の《写し手》」
二人が握手を交わす。
「協力しましょう」「ええ、よろしく」
仲間がどんどん増えていく。
「レンズも展示する?」「もちろん! 私の『永遠』シリーズを見せてあげる」
レンズの写真は、時間が止まったような美しさがある。私の「瞬間」とは対極だけど、それがいい。
準備を進めていると、美咲ちゃんがぽつりと呟いた。
「なんか、みんな特別な感じ……」
「美咲ちゃん?」「いえ、なんでもないです! 私も頑張ります!」
健気に作業を続ける美咲ちゃん。いつか、すべてを話せる日が来るといいな。
文化祭前日。
展示の最終確認をしていると、立花先輩が深刻な顔でやってきた。
「問題が起きた」
「何が?」「例の組織が、文化祭を狙っているらしい」「組織?」「《奪し手》——記録を盗む者たち」
新たな敵の存在に、緊張が走る。
「でも、なんで文化祭を?」「大勢の人が集まる場所で、一度に大量の記録を奪うつもりらしい」「そんな……」
せっかくの文化祭が台無しになる。
「でも」立花先輩が力強く言う。「私たちで守りましょう」
「うん!」「もちろん!」レンズも気合十分。「みんなの思い出を、守り抜きます」ミルも決意を固める。「一緒に」セピアも頷く。
作戦会議の結果、展示を囮にすることに。
「《写し世》の写真に引き寄せられてくるはず」「そこを迎え撃つ」「美咲ちゃんは?」「できれば、安全な場所に」
でも、美咲ちゃんは首を振った。
「私も手伝います! 何ができるか分からないけど……」
その気持ちが嬉しい。
「じゃあ、一緒に頑張ろう」
夜遅くまで、準備と警戒を続ける。
明日は文化祭本番。
楽しいイベントになるはずが、戦いの舞台になるかもしれない。
でも、怖くない。
「みんながいるから」
私の呟きに、全員が頷く。
廃墟写真部の展示『記録と記憶の狭間』。
それは、二つの世界を繋ぐ架け橋。
そして、新たな戦いの始まりでもあった。
「絶対、守り抜こう」「「「「うん!」」」」
明日、どんなことが起きても。
みんなの笑顔と思い出を、私たちが守る。
カメラを握りしめて、決意を新たにした。




