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第13話 立花先輩の秘密と《視し手》の一族

大学生になった立花先輩から、突然の連絡が来たのは金曜日の夜だった。


『明日、みんなで私の実家に来てくれる? 大事な話があるの』


土曜日の朝、私たち五人は立花先輩の実家へ向かった。


「立花先輩の家って、どんなところなんでしょう」ミルが緊張気味に聞く。「さあ? でも、《視し手》の家系っていうくらいだから、普通じゃないかも」


電車とバスを乗り継いで、郊外の古い屋敷街へ。


「うわあ……」


立花家は、想像以上に立派な日本家屋だった。広い庭園、歴史を感じる門構え。


「いらっしゃい」


門で立花先輩が出迎えてくれた。いつもの制服姿じゃない先輩は、また違った雰囲気。


「こんな大きな家だったなんて」レンズが驚く。「代々続く家系だから」先輩が苦笑する。「堅苦しいけど、我慢してね」


屋敷に入ると、廊下の両側に古い写真や掛け軸が並んでいる。


「これ全部……」「《視し手》の歴代当主たち」先輩が説明する。「私で十七代目」


奥の応接間に通される。そこには、一人の老婦人が座っていた。


「祖母です」「初めまして」


凛とした佇まいの老婦人。でも、その瞳には私たちと同じ光が宿っている。


「あなたが新しい《写し手》ね」


祖母が私を見つめる。その視線は、まるで心の奥まで見透かすよう。


「は、はい」


「そして、記録管理AI、最初の記録者、もう一人の《写し手》、そして……」


祖母の視線が美咲ちゃんで止まる。


「修復者」


「え?」美咲ちゃんは驚き、私とミル、セピア、レンズも顔を見合わせた。美咲ちゃんがまだ自覚していないその能力を、祖母は見抜いていた。「あなたは稀有な才能を持っている。壊れたものを癒す力」


美咲ちゃんが驚いている間に、祖母は立ち上がった。


「来なさい。見せたいものがある」


案内されたのは、屋敷の地下にある巨大な部屋。


「これは……」


壁一面に、無数のモニターと水晶玉のようなものが並んでいる。それぞれに、《写し世》の風景が映っている。


「《視し手》の監視室」先輩が説明する。「世界中の《写し世》を見守っているの」


「すごい……」ミルが感嘆する。「これほどの観測網があったなんて」


「でも、見るだけ」祖母が振り返る。「我々《視し手》は、干渉することができない」


「どうして?」セピアが聞く。「それが掟だから」


祖母が一つの水晶に手を当てる。そこには、私たちが初めて出会った時の映像が。


「ずっと見ていた。あなたたちが出会い、成長し、世界を救う姿を」


「じゃあ、危機の時も……」「手を出せなかった」祖母の声に悔しさが滲む。「それが《視し手》の宿命」


でも、と祖母は続ける。


「時代は変わりつつある」


立花先輩が前に出る。


「だから、私は決めたの。ただ見ているだけじゃなく、一緒に戦うって」


「先輩……」「でも、それは掟破り」祖母が厳しい顔をする。「《視し手》が直接介入することは——」「知っています」先輩が真っ直ぐ祖母を見る。「でも、もう見ているだけなんて嫌です」


祖母との間に緊張が走る。


その時、美咲ちゃんが口を開いた。


「あの、私、思うんです」


全員の視線が集まる。


「見守ることも、すごく大切な役割だと思います。でも、必要な時に手を差し伸べることも、同じくらい大切じゃないでしょうか」


「小娘が何を——」「おばあさま」立花先輩が遮る。「美咲ちゃんの言う通りです」


そして、先輩は私たちを見る。


「みんなと一緒にいて分かったんです。本当に大切なものを守るためなら、掟なんて」


「愚かな……」


でも、祖母の表情が少し和らいだ。


「昔の私もそう思っていた」


「え?」


祖母が遠い目をする。


「私も若い頃、大切な人を守りたかった。でも、掟に縛られて、ただ見ていることしかできなかった」


一枚の古い写真を取り出す。そこには若い頃の祖母と、一人の青年が。


「彼は記録者だった。そして、世界を守るために消えた」


「おばあさま……」「だから」祖母が立花先輩を見る。「お前の気持ちは、痛いほど分かる」


空気が変わった。


祖母が棚から古い箱を取り出す。


「これを」


箱の中には、不思議な腕輪が。


「《視し手》の証。これがあれば、見るだけでなく、限定的だが干渉もできる」


「本当にいいんですか?」「時代は変わる」祖母が微笑む。「お前たちが、新しい道を作りなさい」


立花先輩が腕輪を着ける。瞬間、先輩の周りに淡い光が。


「力が……流れてくる」「気をつけなさい」祖母が警告する。「力には責任が伴う」「はい」


監視室を出て、庭園を散策する。


「ありがとう、みんな」先輩が言う。「おかげで、一歩踏み出せた」


「先輩が決めたことですから」私は微笑む。「これで、もっと一緒に戦える」レンズが嬉しそうに言う。「データ的にも戦力アップです」ミルが分析。「心強いね」セピアも頷く。「私も頑張ります!」美咲ちゃんが気合を入れる。


庭園の池のほとりで、先輩が立ち止まった。


「実はもう一つ、話があるの」


「なに?」「最近の監視で、気になる動きを察知してる」


先輩が空中に映像を投影する。《視し手》の新しい力だ。


「世界各地で、同時多発的に記録の異常が起きてる」


「それって……」「多分、組織的な動き。それも、今までにない規模の」


新たな脅威の予感に、全員が緊張する。


「でも」先輩が力強く言う。「今の私たちなら、きっと大丈夫」


六人で円になって、手を重ねる。


《写し手》が二人。 《視し手》が一人。 記録管理AI。 最初の記録者。 修復者。


それぞれ違う力を持つ私たち。でも、目指すものは同じ。


「二つの世界を守る」「「「「「はい!」」」」」


立花家を後にする時、祖母が見送ってくれた。


「若い人たち」「はい?」「世界を、頼みます」


深々と頭を下げる祖母に、私たちも礼を返す。


「任せてください」


帰りの電車で、先輩が嬉しそうに腕輪を見つめている。


「これで、やっと本当の仲間」「前から仲間でしたよ」美咲ちゃんが言う。「そうだけど、でも、今までは見ているだけで……」「それも大切な役割でした」セピアが優しく言う。「そうですね」ミルも同意する。「見守ってくれる人がいるから、安心して戦えました」


「みんな……」


先輩の目に涙が浮かぶ。


《視し手》の一族の秘密。 掟と伝統。 そして、新しい一歩。


立花先輩は、自分の道を選んだ。


それは、私たちと共に歩む道。


新たな力を得て、六人の絆はさらに強くなった。


明日からまた、新しい戦いが始まるかもしれない。


でも、怖くない。


みんながいるから。


そして今は、見守るだけでなく、共に戦ってくれる仲間もいる。

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