第12話 記録の海岸・みんなで夏休み!
「暑い〜〜〜!」
7月の土曜日、部室に集まった私たちは全員でぐったりしていた。
「こんな日は海ですよ!」美咲ちゃんが提案する。
「海かあ……」「でも、現実世界の海は人が多そう」レンズが渋い顔をする。
その時、ミルの瞳が光った。
「そういえば! 《写し世》に『記録の海岸』という場所があります」
「記録の海岸?」「誰かの最高の夏の思い出が、完璧に保存されている場所だそうです」
「美咲ちゃんも、この前鏡の迷宮で《写し世》の四季を体験したけど、今回はもっとリアルな海だよ」「《視し手》の記録にもあったわ。行ってみる価値はありそう」
「決まり!」私は立ち上がる。「みんなで海に行こう!」
「でも、水着が……」美咲ちゃんが心配そう。「大丈夫! 時計塔に色々あるから」
こうして、急遽海水浴大会が決定した。
時計塔の衣装部屋は、予想以上に充実していた。
「なんでこんなに水着があるの……」「きっと、夏の記録も多いからですね」ミルが納得したように頷く。
女子組と男子組に分かれて選ぶことに。
「ユイ先輩、これとか似合いそう!」
美咲ちゃんが持ってきたのは、フリルたっぷりの可愛い系。
「ちょっと可愛すぎない?」「ダメよ、ユイはこっち」レンズが選んだのは、大人っぽい黒のビキニ。「それは逆に大胆すぎ!」「私はこれがいいと思います」ミルが持ってきたのは、スポーティーな紺のワンピース。「それなら無難かな」
立花先輩は既に決めていた。シンプルだけど上品な白のセパレート。
「さすが先輩、センスいい」「小さい頃、習ってたから」
結局、それぞれ好みのものを選ぶことに。
私は青いビキニにパレオ。 ミルは白いフリル付きワンピース。 レンズは赤いビキニ。 美咲ちゃんはピンクの可愛いワンピース。 立花先輩は白のセパレート。
「男子、遅い〜!」
ノックして呼ぶと、セピアの声が。
「ごめん、もうちょっと待って」
なんだかんだで15分後。
「お待たせ」
出てきたセピアは、黒い海パンにラッシュガード。影があるセピアは、本当に普通の美少年に見える。
「わあ……」
女子陣から歓声が上がる。
「セピア先輩、かっこいい!」美咲ちゃんが頬を赤らめる。
「そう?」
相変わらず自覚がないセピア。
記録の海岸は、想像以上に美しかった。
エメラルドグリーンの海、白い砂浜、そして真夏の太陽。潮の香りまで完璧に再現されている。
「すごーい!」
美咲ちゃんが真っ先に駆け出す。
「本物の海みたい!」「データ的にも完璧な再現です」ミルも感心している。
でも、水際で立ち止まる。
「どうしたの、ミル?」「実は……まだあまり泳げないんです」「大丈夫! みんなで教えるから」立花先輩が優しく言う。
レンズはすでに海に入っている。
「つめた〜い! でも気持ちいい!」「レンズ、いきなり飛び込まないで」
みんなで海に入る。
ミルの水泳指導は、セピアが担当することに。
「力を抜いて、水に体を任せて」「は、はい」
ミルが緊張でガチガチになっている。
「ミル先輩、ファイト!」美咲ちゃんが応援する。
一方、レンズは私に勝負を挑んできた。
「ユイ、競争しよ!」「望むところ!」
二人で沖まで泳ぐ競争。結果は……
「引き分け〜」「ふふ、ユイもなかなかやるじゃない」「レンズこそ」
立花先輩は優雅に泳いでいる。さすが、育ちの良さが出ている。
「先輩、フォームきれい」「小さい頃、習ってたから」
ふと見ると、ミルが必死にバタ足の練習をしている。セピアが支えているけど——
「セピア様、もうちょっと近くで支えてください」「これくらいで大丈夫だよ」「不安です〜」
結局、ミルはセピアにしがみつくような形に。
「あれ、わざとじゃない?」レンズが疑惑の目を向ける。「ミル、成長したね」私も苦笑い。
昼は、浜辺でピクニック。
「はい、お弁当!」
立花先輩が用意してくれたお弁当は、豪華だった。
「さすが先輩!」「みんなで食べるなら、これくらい普通よ」
サンドイッチ、おにぎり、唐揚げ、フルーツ。
「美味しい〜」「ビーチで食べると、また格別ですね」ミルも満足そう。
食後は、恒例の——
「ビーチバレー大会!」
チーム分けで揉める。
「セピアは私のチーム!」ミルが主張。「ダメよ、戦力バランスが」レンズが反対。
結局、くじ引きで決めることに。
Aチーム:私、ミル、立花先輩 Bチーム:セピア、レンズ、美咲ちゃん
「よーし、負けないよ!」
試合開始!
「ミル、そっち!」「はい!」
ミルの正確な計算によるトスを、私がスパイク!
「ナイス!」
でも、向こうも負けていない。
レンズの強烈なサーブを、美咲ちゃんが奇跡的にレシーブ。
「つながった!」
セピアが華麗にスパイクを決める。
「さすがセピア先輩!」
白熱した試合は、結局Aチームの勝利。
「やった〜!」「ミルさんの戦術が良かったですね」立花先輩が褒める。「えへへ」
罰ゲームは、負けたチームが砂に埋められること。
「ひゃ〜、くすぐったい!」
美咲ちゃんが笑い転げている。
「レンズ、じっとして」「砂が変なところに〜!」
セピアは落ち着いて埋められている。
「なんか、楽しいね、これ」
写真撮影タイム。
「はい、みんな集まって〜」
セルフタイマーで、全員の水着姿を撮影。
「もっとくっついて!」「これ以上は無理〜」
ぎゅうぎゅうに詰まった6人。でも、みんな最高の笑顔。
夕方、砂浜を散歩する。
「今日、楽しかった」セピアが呟く。「うん」「また来たいです」ミルも満足そう。「今度は、もっと長く滞在しよう」レンズが提案。「キャンプとか!」美咲ちゃんも乗り気。「いいわね」立花先輩も賛成。
夕日が海を金色に染めている。
6人の影が(セピアもちゃんと影がある!)砂浜に長く伸びる。
「ねえ」私は言う。「来年の夏も、みんなで来ようね」
「もちろん!」「約束」「絶対」「楽しみ」「決定ね」
みんなの声が重なる。
最後に、夕日をバックにもう一枚。
今度は、ちょっと真面目なポーズで。
でも、誰かが笑っちゃって、結局みんな笑顔に。
それが、一番いい写真になった。
時計塔に戻って、着替えを済ませる。
「日焼けしちゃった」レンズが鏡を見ている。「私も〜」美咲ちゃんも少し赤い。「データ的には、紫外線は……」「ミル、今日くらいは効率考えないの」
みんなで笑い合う。
現実世界に戻る前、ミルがぽつりと呟いた。
「私、今日分かったことがあります」
「何?」「水着って、恥ずかしいけど、みんなと一緒なら楽しいです」
「そりゃそうよ」レンズが当然のように言う。
「一人じゃ、ただの布だもん」
深い。レンズ、時々核心をつく。
「また行こうね」「うん!」
こうして、記録の海岸での一日が終わった。
写真を見返すと、みんな本当に楽しそう。
水着姿も、恥ずかしいけど良い思い出。
これも、大切な記録の一つ。
夏は、まだまだ続く。