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十月の風の手紙
ちぎれた言葉を
運んでいく私は
誰の手紙も読めない風
自販機の温もりに触れて
少し暖かくなった翼で
ポストの隙間をくすぐる
さびしがり屋の街灯に
こんばんはを囁いて
点字ブロックの溝を伝う
十年後の約束を抱えた
あの青年の肩に触れた時
缶コーヒーの香りを纏った
迷い猫のポスターが
剥がれないように
そっと支えながら
桜の古い傷跡に
来年を約束して
コンクリートの隅を巡る
おばあちゃんの手紙を待つ
赤い箱の前で
一瞬の休息
蜘蛛の巣を揺らして
ごめんねと思いながら
電線を伝う鳥の歌に混ざって
誰かの想いを運ぶ風は
この街角で
いつもより長く遊んでいく
人の気配が消えた夜に
自販機とポストの
黙した会話を聴きながら
明日も
この場所を
吹き抜けていこう
だってここには
まだ書かれていない
たくさんの手紙が
届くはずだから
(十月の風より)