街角の声
街灯
夜になると、自販機と二人三脚で通りを照らす。私の光は少し黄色みがかっていて、懐かしい雰囲気を醸し出すと自負している。根元には、毎年同じ雑草が生える。
電柱
私の腕には、様々な鳥たちが止まっていく。ここからは自販機の前で立ち止まる人々がよく見える。電線を伝って街の声が届く。時々、カラスが巣を作ろうとするが、すぐに撤去されてしまう。番号は4269。
点字ブロック
自販機の前を通り過ぎる人々の足音を感じている。特に雨の日は滑りやすいので、皆が慎重に歩く。週に一度、目の不自由な老紋さんが白杖で私を確かめながら通る。
排水溝の格子
雨の日は大忙しだ。自販機から垂れる水滴も、私が全部受け止める。落ち葉も、ゴミも、時々子供たちの消しゴムも。でも一番の敵は、春の桜の花びら。あれは本当に目詰まりの原因になる。
マンホールの蓋
下水道会社のロゴマークと、街のシンボルである銀杏の葉がデザインされている。夏の日差しで熱くなると、犬たちが避けて通る。でも夜は涼しい風が下から抜けてきて、ちょっとした避暑地になる。
雑草(ポスト横)
誰も私の名前を知らない。でも、毎日郵便配達員の靴音を聞きながら、ポストの赤い足元で静かに生きている。時々、通りかかった犬に水をかけられるけど、それも人生。
ガードレール
曲がり角の安全を見守って15年。白いペンキは少し剥げてきたけれど、まだまだ現役。夜の暴走族にぶつけられた傷は、勲章のようなものだ。
自転車置き場
昼間は学生たちの自転車で賑やか。恋人たちの待ち合わせ場所にもなっている。錆びた看板には「私道につき関係者以外駐輪禁止」の文字。でも、誰も気にしていない。
桜の木
春には自販機の上に花びらを散らせる。根は地下の配管を避けながら、しっかりと地面を掴んでいる。幹には「ヒロ♡ミキ」というハートマークが刻まれているけれど、もう二人とも大人になった。
コンクリートの壁
苔むした表面に、時々チラシが貼られる。すぐに剥がされるけれど、糊の跡が微かに残る。昔は鮮やかだった落書きも、今は薄れてきた。
通りの角の地域掲示板
ガラスケースの中には、町内会の告知や、お祭りのポスター。隅っこに貼られた迷い猫のチラシは、もう2ヶ月経つ。雨に濡れて文字が滲んでいる。
暖簾の残骸(閉店した商店の前)
かつては元気な八百屋があった場所。今は色褪せた暖簾が風に揺れるだけ。でも私は覚えている、子供たちがお使いに来た時の元気な声を。
防犯カメラ
24時間、この場所を見守っている。夜中に自販機に寄りかかって手紙を書いていた青年の姿も、もちろん記録済み。でもそれは、誰にも話さない秘密。
蜘蛛の巣(街灯の裏)
毎朝、朝露で輝く巣を作る。虫たちが街灯に集まってくるので、ここは絶好の場所なんだ。時々、清掃員に壊されるけれど、また作り直す。それがこの場所での私の日課。
自転車のサドルカバー(放置自転車)
青いビニール製。もう3ヶ月ここにある。持ち主は来ないけれど、雨から大切な自転車を守り続けている。少しずつ色が褪せてきた。
これらの「物言わぬ証人」たちが、この街角の物語を静かに見守っている。自販機とポストを中心に、それぞれが独自の視点で、この場所の日々を記録し続けているのだ。