10年後の自分へ
令和6年10月29日
現在の俺より
よう、10年後の俺。
この手紙を書いてるのは、駅前の自販機で買ったブラックコーヒーを飲みながらだ。缶が温かくて、手が少し汗ばんでる。ポストの赤いやつが、夕日に照らされてやけに鮮やかだ。
今日、内定辞退の連絡を入れてきた。
親父は怒るだろうな。でも、あの会社に入って、毎日スーツ着て電車に揺られて...そんな未来を想像したら、胸が苦しくなった。
なあ、10年後の俺。お前は今、どんな仕事してるんだ?
俺にはまだ、はっきりとは見えない。でも、こないだYouTubeで見た、アフリカで井戸を掘ってる日本人エンジニアの動画が頭から離れない。工学部で学んだことを、もっと直接的に誰かの役に立てる方法があるんじゃないかって。
親父の会社の先輩たちは、「若いうちは安定が一番だ」って言う。確かにそうかもしれない。でも、この先40年、50年...一度きりの人生なんだよな。
今、赤信号で車が止まってる。運転手たちの表情が、みんな疲れてる。これが普通なのかな。でも、普通って何なんだ?
10年後の俺は、この選択をどう思ってる? 後悔してる? それとも...
缶コーヒーが空になった。ポストに手紙を入れる前に、もう一本買おうと思う。温かい缶を握ってると、なんか考えがまとまる気がする。
そうだ、言っておかなきゃいけないことがある。
母さんの具合、最近良くないんだ。病院では大丈夫って言うんだけど、なんか疲れてるみたいで。10年後はどうなってる? 元気でいてくれてるよな? 頼むよ。
あと、まひるのことも。今日、LINEのアイコンが変わってた。誰かと写ってる写真。親指が止まって、結局何も送れなかった。高校の時に告白すれば良かったって後悔してる。いや、今からでも...でも、タイミングって本当にあるのかな。
10年後の俺は、誰かと幸せになってるのかな。
空が茜色に染まってきた。この手紙、本当に届くのかな。いや、届いてるはずだ。だって10年後の俺が読んでるんだから。なあ、そうだろ?
なんか、段々と字が小さくなってきた。照れくさいっていうか、怖いっていうか。
でも、これだけは約束してくれ。
何があっても、今の俺の気持ちを忘れないでくれ。
「普通」を選ばなかった勇気も。
夕暮れの自販機で、温かい缶を握りしめながら、未来の自分に手紙を書いてた25歳の気持ちも。
じゃあな。
どうか、後悔のない人生を。
追伸
缶コーヒーの値段、10年後も130円のままだといいな。
...もう一本買ってから、投函するよ。
2024年の俺より
P.S.
この手紙、コンビニの便箋に書いてる。裏に500円のレシートが透けて見えるけど、気にすんな。今の俺には、それが精一杯の「未来への投資」ってやつだ。
でも10年後は、もっとちゃんとした便箋買えるように、頑張るから。