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パムルゴニアの冒険者たち  作者: 不思議OHP
第二章 大襲撃の夜
50/50

50 奉仕活動の朝

 はるか頭上に昇りはじめた太陽は、ジリジリと哀れな地上の罪人たちを容赦なく照らす。あれだけ待ちわびていた太陽が今は憎らしいと思えるほどにその日差しは強く、眩しかった。


 かれこれ30分。上空から照りつけるその罰の炎に焦がされながらも俺たちは、乾いた大地の隙間から顔を出す雑草を延々と抜く。


 抜いて抜いて抜きまくり、しかし振り返れば地面にはすでに新しい草が青々と茂っている。数分で復活する草をすべて抜くことは不可能であり、ただ作業の終了が告げられるまでの残り時間、労働とは名ばかりの無意味な行為に没頭しながら、無心で終わりの時を待つしかない。


 隣で同じように草むしりに励むミレイは何か恨みの言葉をブツブツと呟きながらも淡々と作業を続けていた。


「まじで……ありえないんですけど……ほんとに……」


「まあ仕方ないよ。結果として無事にイベント生き残ったわけだし」


「それはそうだけど、わたしが言ってるのはなんで休む間もなくこんなことしてるのかってこと!」


 イベント終了後、すぐさま衛兵に強制連行された俺たちはカリア城壁外に連れて来られていた。複数の班に分かれてたっぷり一時間、周辺の草むしりを行い、犯した罪を洗い流す。


 ナンガナンガを倒した後もバインドは解けること無く、広場に阿呆みたいに寝転がったまま俺たちはしばらくの時を過ごした。その間、延々と飛び交う罵詈雑言の数々を聞いたのは言うまでもない。

 

 やがて空気から夜の匂いが消える頃、何の前触れも無くバインドはあっさりと解けた。それと同時に機能を回復した衛兵たちが広場に殺到し、勝利の余韻を味わう間もなくあれよあれよと言う間に俺たちは連行された。イベント中に犯した窃盗の罪により、俺とミレイは城壁外の草むしりという奉仕活動を強いられている。


 ガブは衛兵に捕まる前にいつのまにか姿を消していた。さすが盗賊である。先ほどからカリア城壁の上でちょろちょろと動き回る小さな影はおそらくガブだ。俺たちの様子を見下ろして笑うためにわざわざ見学に来たのだろう。


 作業の隙間を縫い振り返れば、同じように何人もの罪人たちが衛兵に見張られながら草むしりに励んでいる。全員おそろいの囚人服を着せられ、NPCの衛兵に監視されるこの屈辱たるや。カリア城門をくぐって冒険に旅立つ冒険者たちがこちらを物珍しげに眺めているのがわかり、俺は背中を丸めた。


 だが黙々と続けるしかない。

 作業量が芳しくなければ再びやり直しだ。


「わたし明日試験なんだけど……」


「今日は寝たら? ほら、ログアウトして明日続きやってもいいわけだし」


「絶対嫌。明日まで囚人で過ごすなんて。意地でも今終らせて気持ちよく寝るんだから」


 そう言ってミレイはすごい勢いで草をむしる。さて、俺も本腰を入れるか……と気合を入れた矢先、


「ぎゃー!」


と、別の班から叫び声があがった。


 声に振り向けば、レドさんが数人の衛兵に刺又(さすまた)でとらえられている。隣では同じく囚人姿のトゥーファがざまあみろとばかりにニヤニヤとした笑みを浮かべていた。


「なんでだよ! そこのハレンチ野郎がさぼってるから密告したのに! なんで僕が!」


「ざまあ。そんな暇があるなら黙ってむしれボケカスが。って、うぐっ!」


 横で爆笑していたトゥーファもすぐさま別の衛兵に殴られる。


 やはり似たもの同士……と二人の様子を眺めていたが、衛兵にジロリと睨まれ俺も作業に戻った。


 日差しは暑いが、たまに吹き抜ける風は心地よい。先ほどまでの戦いの緊張感が嘘のように思える。隣のミレイに習い、黙々と草むしりを続けていると自然に瞼が重くなる。


 疲れと、安堵と、単純作業と。


 いかん、と目を瞬くも俺の意識は曖昧に溶けていく。


 集中しろ。


 集中しろ。


 集中。


 集中……


 …………



 形を成さない意識の輪郭の中、誰かが俺を呼んでいるような気がした。


 その声にならない声の主を俺は知っている。


 気がつけば三匹のオオカミがこちらをじっと見つめていた。


 こちらを値踏みするような視線は相変わらずだ。が、その瞳には何か別のものも宿っているようにも思われた。


 その瞳に潜むものを読み取ろうとしばらくの間、向かい合う。やがてオオカミの一匹が口を開いた。


『君の深層意識は幽世の狭間に落ちやすいようだ。こういう現象を君たちの言葉で何と言うんだっけ…………そうだ、確か、【寝落ち】』


 寝落ちなんて誰でもするだろ。そんなことより聞きたいことが山ほどある。運営は何をしようとしてる? さっき会った時言ってただろ? 運営も混乱してるって。


『ああ、覚えてるんだ。それは想定外。僕らが思ってる以上に君とニアの結びつきは強いのかも知れないね』


 ニア……。ニアって結局何なんだ? この世界の神様なんだろ?


『あまり気にすることはないよ。どのみちすぐにすべてを知ることになるから』


 すべてを知る……すぐっていつだ?


『すぐはすぐ。ニアは八千年もこの世界を見守ってるんだ。それに比べればほんの瞬きをするほどの間だ。ほら、僕たちは楽しくお喋りをしてるわけにはいかない。君には今すぐやるべき事がある』


 やるべき事? それは、何だ?


『何ってほら、言わなくてもわかるだろ』

 

 どういうことだ?


『ほら、つまりは』


 ?


『草むしりだ』


 え?



「フジ!」


 ミレイに肩をこづかれ、我に返る。


 すぐ足元に落ちた影。顔を上げると鎧に身を包んだ衛兵が俺を見下ろし、刺又を振り上げていた。


 太陽の光を反射し輝く刺又。その眩しさと、次に訪れるであろう衝撃に俺は目を閉じた。


 ――なにはともあれ。


 俺たちはあの夜を乗り切った。ニアは今頃ベルさんとギルドハウスで留守番をしているだろう。この世界に何が起こっているにせよ俺たちに大義なんてない。ただの一般プレイヤー、何万人もいる冒険者の一人。


 だけどもし、草をむしる以外にも俺にやるべき事があるなら。ニアを中心としたこの異変の中で出来ることがあるなら。それこそが俺たちの望んでいた冒険、なのかもしれない。


 そう思ったところで、俺の頭を衝撃が打った。


 ぐふっ


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