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パムルゴニアの冒険者たち  作者: 不思議OHP
第二章 大襲撃の夜
43/50

43 決断

 ナンガナンガが蛇のような鎌首をもたげて忌々しげに吠えた。体が放つ禍々しい瘴気が振動で飛散し、夜の闇をより黒く彩る。


 イベントも終盤に差し掛かかる中、冒険者たちは総攻撃を仕掛けているようだった。わらわらとナンガナンガに群がる姿が遠目から見える。が、しかしほとんどそのHPは減っていないように見えた。  


 さしずめ巨大怪獣 VS 非力な人類。 


 しかしやらなければ。


 俺達がこれから行おうとしていることの無謀さを想像すると、背中に一滴冷たい汗が流れた。

 

 俺達の次の目標。


 それはあのドラゴンをレドさんの待つ凱旋門広場へと連れて行くことだった。


 少しでも視界に入ればいい。近づき過ぎず、離れすぎず、ナンガナンガがこちらに気付くのを待つんだ。


「おい、ここからじゃ俺たちの姿なんて絶対見えてないよこれ! どうする!?」


「えーとえーと、高いところ! あそこ登ろう」


 ミレイが指したのは街の一角に作られた見張塔だった。俺たちが塔に向かって駆け出すと同時に、路地からはまるで水が溢れだすように魔物の群れが押し寄せる。考えている余裕はない。


 ニアを腕に抱きながらも梯子に手をかけ必死で登る。


「急げフジ!」


 スイスイとてっぺんまで登ったガブとミレイがゲキを飛ばす。片腕では思うように登れない。ニアを抱っこ紐ででも括りつければ良かった。魔物の黒い影はすぐ足元まで迫っている。


 頭上から、ガブの放つ矢が俺の身体のスレスレをかすめ、足元の魔物の頭を撃ち抜く。魔物は絶命し、真っ逆さまに深い闇へと落ちていった。次々と降るガブの矢の雨に肝を冷やしながらも、なんとかてっぺんの高台にたどり着く。


 すぐさまガブが爆弾を足元に向かって投下すると、爆風とともに梯子が壊れ、バラバラと破片が落ちた。俺達と魔物は分断される。ひとまずはここまで登って来れるものはいないだろう。


「はあはあ、なんとかなった……のか、とりあえず」


 三人ともが息を切らせ、束の間の休息に安堵する。へたり込み、息を整えるがのんびりしている時間はない。すぐさま立ち上がり、遠く、暴れまわるドラゴンに向かって叫んだ。


「うおーい!うおーい!」


 全員で声を張り上げるが、小さな虫が巨大な怪獣に向かって呼び掛けているようなものだ。聞こえるわけがない。ナンガナンガはそんな呼び声は露知らず、足元に群がる冒険者たちを蹂躙するのに夢中らしく一向に背を向けたままだ。


「まずい、全然こっちを向く気配がないぞクソ!」


「見て! ヤバくない?」


 ミレイの声に眼下を見れば、塔の真下に大挙して魔物が集まっている。まるで砂糖に集まる大量の蟻だ。魔物の影に覆われて、塔の根元には漆黒が広がっていた。


 魔物たちはお互いを踏み台にして、梯子の無い見張塔を登って来ようとしていた。蜘蛛の糸に群がる亡者のように、集まった魔物たちでみるみるうちに巨大な足場を形作る。ここまで辿り着くのも時間の問題だ。


「だめだ! 失敗だぜクソ! 屋根に飛んで逃げよう!」


「ムリ! めっちゃ高いよ! 落下ダメージで死んじゃう!」


「どうすんだよ!」


「どうすんのよ!」


 ど、どうするんでしょう……


 何故か二人とも俺に食って掛かる。


「えーと……あの……その……」


『作戦失敗』の四文字が頭に浮かぶ。何とか打開策を見つけようと頭をフル回転させるが、そう都合良く思い付くわけでもない。そうこうしている間にも俺達の足元には絶望が迫っていた。


「と、とにかく、なんとかしてナンガナンガをこっちに……」


「だからそれをどうやってやるか、って言ってんの!」


 ミレイに胸ぐらを掴まれる。うおお、なんで俺が……


「じゃ、じゃあとりあえずここから逃げて……それから考え……」


「そんなチャンスがあんのかよ! あのデカイやつを連れていかないことには意味ないだろ!


 今度はガブに詰め寄られる。


「誰だよ!こんな無茶な作戦考えたやつ!」


「知らない!レドさんに言いなよ!」


 みんな半ばパニックだ。狭い足場を右に左にウロウロとした後、思い付いたようにガブが言った。


「そうだ! フジ! アレを使えば逃げれる! 例のアレ使って飛び降りて……」


 確かにそうかも知れないが、いやしかし、ガブが言うところの例のアレは奥の手だ。アレを今消費してしまっては作戦の続行を諦めることになる。それこそ完全なる失敗を意味するような気がした。いや、もうすでに失敗しているのかも知れない。それならば一縷の望みに託して生き残る道を……。人間、生きてさえいれば何とかなる、ってよく言うし……いや、でも……。


 躊躇する俺に、ガブがいよいよ辛抱ならんといった調子でわめく。


「ここで死んだらそれこそ意味ないだろ! もういい! 俺は逃げるぞ!」


 そう言ってガブは鉄柱に降下のためのロープを巻き付けはじめた。


「あ、ガブちゃんズルい! わたしも行く!」


「いや、このロープ一人用だから」


「なにそれ! そんなのやってみなきゃわかんないでしょ!」


「駄目だって! 千切れるううう!」


 無理矢理に一本のロープに群がる二人。これはいよいよ限界だ。とにかく例のアレを使ってでもここから飛び降りて逃げるしかない……。それからナンガナンガに近づき……どうする? あんな巨体が追ってきてはひとたまりもない。またたく間に追い付かれ踏み潰されるだろう。しかし現状、他に選択肢はないように思われた。


 俺は懐をまさぐり、それを取り出す。決断の時だ。この選択は間違っているかもしれない。でも、死んでしまえば元も子もない。


 やるしかない。


 俺は手の中の小さなそのアイテムをお守りのように握りしめ、心を決めた。

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