「名実ともに悪である」②(始まり)
海岸
散りゆく花のように、消えていくあなたを、見つめることしか私には出来ない。
どうしてと叫んでもその声は虚空へと消えていく、なぜだと喚いても救いの手はさしだされない。
「どうして」
どうして、こいつなんだ?そんな理不尽な現実に対する怒りが心を支配していく。
「神様...」
お願いだ、一度だけでいい。
もしも...
もしも奇跡が起きるなら。
こいつを。
「こいつを救ってくれ」
そう言って少年は、うつろな目に涙を浮かばせながら、その少女の冷たくなった手を握るのだった。
数日後、舟の倉庫の中
その少女が、目覚めることは二度となかった。
戦死者の棺桶が運ばれていく
棺桶はとても簡素で、ガサツな所がいくつもあった。
規則的に棺桶が並べられていく。
「数えきれないな」そう言いながら少年は小さくため息をつく。
沢山ある棺桶の中にそいつの名前が刻まれているものがあった。
「やっと見つけた」
棺桶をなでる
ヘクタードイル「ようやく、帰れるんだぞ」
気がつくと「ミカ」が近くまで来ていた。
ミカ「大丈夫?」
「あぁ、別に問題ない」
帽子を深くかぶる。
ミカ「そう...」「よかった」そう言いながらMはとても悲しそうな顔をした。
「もしも、もしも違う道を選べるのなら」
(僕は、今度こそ)
しかし少年の人生が変わることはなかった。
10年後
町のスラム街をスーツ姿の男達が走っていく、
一人の男が「自分を守るように」と命令する。
「おいお前、俺を守れ」
しかし、暗闇から放たれた銃弾が、部下の頭を正確に打ち抜いた。
「クソ」
「時間稼ぎにもならない、屑どもが!」
男は、必死の形相で走り出した。
自分の娘の写真が入ったペンダントを握りながら。
暗い路地裏を一人で走っていく。
「クソ!クソ!!クソ!!!くそぉおおお!!!!」
(なんで俺がこんな目に!!)
その時、男の足が銃音と共に吹き飛んだ。
「ぐぁあああああああああああ!!!!!」
男の絶叫が路地裏に響く
男は倒れた拍子に銃を落としてしまう。
「ぐぁああ!!ぁああああああ!!!」
体を引きずり、必死に手を伸ばす、
しかし、男の手が銃に届いた瞬間、今度は銃ごと男の手が吹き飛び路上に転がった。
その痛みに男が悶絶する。
「あああああああああ!!!!!」
その時暗闇から誰かがゆっくりと歩いてくる音が聞こえた。
男の顔が青ざめていく。
振り返ると、スーツを着た男が、銃を構えていた。
そして、その男は冷静に引き金を引くのだった。
終戦後、この国には、平和が訪れるはずだった。
しかし、現実は違った、
アルベルト国、とエルビス国の間で行われた戦闘は、泥沼化し、
両国とも国力を摩耗させるだけの結果となった、
それを好機とみたターナ国がエルビス国に宣戦布告(エルビス国はアルベルト国より小さい)
一ヵ月もたたないうちに戦争は終結。
エルビス国の土地は植民地化、それを危惧したアルベルト国がターナ国に対し宣戦布告、
戦闘はエルビス国の土地で行われ国土は焦土化、
治安が悪化し、テロが蔓延る地域、
そんなところで稼げる仕事なんてたかが知れている。
売春、傭兵、薬売り、
そして、人身売買
男がポケットから携帯電話を取り出し電話をかけた。
「僕だ」
「ああ、終わったよ」
誰かと、話している
「今から向かう」
ふと、死んだ男の握っていた写真が目にとまった
しばらく歩いて、ある倉庫の前までやってきた。
大きな鉄の扉を開ける
倉庫の中にゆっくりと光が入り込む。
そう、それが全ての始まりだった。