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6話 宣戦布告

 私が王女付き騎士になった翌年、ヴォックスは帝国の騎士団に入った。本人の希望だから当然ではあるけど、年齢としては珍しいと言える。グレース騎士学院在学中で、デビュタントである十六歳を迎えてないのだから異例なのだろう。

 この頃からヴォックスは欠席が出るようになるが、それは私とて同じだった。


「騎士団長に任命された」

「おめでとう」


 さらに一年後、十六歳を目前にしてヴォックスは帝国で一番の騎士になった。騎士団に入ってから帝国の武力侵攻に参加し続けた功績が認められたのだろう。異例の抜擢だった。


「やっと会えたね」

「ああ久しぶりだ」


 武力侵攻の目処が立ったのか、一ヶ月ぶりに再会した。


「私からも祝いの品を」

「俺に?」

「ああ」


 僅かにそわそわした感じを見せながらプレゼントを広げる。大振りの布と小振りの布、剣の手入れ材のセットだ。


「この大きさなら怪我をしても対応出来る」

「成程」


 さすがヴォックス、嬉しそうに受け取ってくれるあたり、こちらとしても安心する。

 当初この話を王女殿下に持っていったら、色気がないと言って烈火のごとく怒られた。

 しまいには少しでも色気をと布に刺繍を強要される。王女殿下の命となればやるしかなかった。幸い、小さい頃から自分の服を直していたこともあり、刺繍はなんなくこなせてしまったのは運が良いと言える。

 それを見て殿下が意外だと言って目を丸くして、針で指を刺したら手当しようと思ってたのにと言ったので、わざと針を刺し血を流して、呆れた顔をされたまま手当をしてもらったという余談まであるが話す必要ない。あの手当してくれてた時の微笑みは本当かわいらしかった。


「成程、そういう事か」

「……ん? 声に出てた?」

「ああ」


 大事にすると丁寧に箱に戻される。手入れ材は箱にいれてても意味ないがきちんと使うとヴォックスは頷いた。


「金の花か」


 箱を閉める前に刺繍を指でなぞる。目元が緩んでいるから気に入ったのだろう。


「ヴィーから花を貰ったからね。後は王女殿下から頂いた糸がその色だっただけ」


 勝利や栄光という意味も金色にこめてもいるけど、これも話す必要はない。今回のデザインは帝国騎士の紋章を主とし金の薔薇と雛菊をそえた。金糸がメインだから随分派手になっている。


「王女殿下と仲が良いんだな」

「とても良くして下さるし、可愛いくて仕方ない」

「そうか」


 私にとっても王国民にとっても花であり、国の象徴だ。


「私にとっての光で、生きる証だよ」

「……詩人だな」

「からかわないで」


 小さく笑うヴォックスの眉が下がった。


* * *


「というわけで、喜んでもらえたようです」

「あのプレゼントで喜んでもらえるなんて奇跡よ……」


 意気揚々と王女殿下に報告をあげた私に呆れ顔の少女は溜息を吐いた。


「お世辞でもないのね」

「ええ」

「察しのいいユツィの言うことなら本当なんだろうけど」


 あっちも変わり者ねと笑う。騎士なんてそんなものだと思っていたけど、殿下曰く町中まちなかの警備騎士達の方がまだ色気があると言った。


「帝国第二皇子で騎士団長……肩書きとしては悪くないわ」

「何を仰っているのです?」

「ユツィの旦那様に相応しいかどうかよ」


 殿下は常に私の身辺を気にしてくださる。とても優しい方だ。だけど。


「私と彼はそのような関係ではありません」

「でもユツィ、彼のこと好きでしょ?」

「そ、んなことは、」

「彼もユツィのこと好きでしょ?」

「それは……」


 はっきりとすぐには否定できない。ヴォックスの喜びようと私に対する視線やそこに乗る感情はいつだったか変化していた。

 今では友人へのものではないと感じ取れる。言葉にされたことがないから、関係は仲の良い友人のままだけど、実際はどうかと問われると互いに変わりきっていて友情ではないとはっきり言えた。


「刺繍の時みたく、わざと怪我でもしてしな垂れかかって手当してって言えばいいのよ。その反応で脈ありか分かるわ。いいえ脈ありもなにもないわね。そのままの勢いでキスの一つや二つって可能性も、」

「普通の手当てして終わりですよ」

「なによ。私には喜び勇んで手当されにきたくせに」

「殿下が最優先なもので」


 それにそんなことをしなくても日々の様子で知れる事だ。はっきりと恋愛感情について言われてなくても察してしまう。けど踏み込むことはしなかった。勘違いだった時に気まずいし、今の関係を壊したくない。


「いいなあ、学舎で出会った恋とか」

「ファーブラにも相応しいお相手が見つかります」


 まだ年齢としては早いが王族である以上話はあるだろう。まあ私のお眼鏡に敵うか見物ではある。殿下のお相手に対して私にも発言権を頂いているので物申すが可能だった。


「婿と言う形でもきちんとした男性を選ばないといけませんね」

「んー、婿ねえ」

「おや、王位を継ぐ気はありませんか?」


 両陛下のたった一人の子供、それがファーブラ王女殿下だ。この国は女性の王位継承を是としているので今代が退いた後は目の前の少女が王位を継ぐ形になる。けれど拒否・辞退も可能だ。この国はそういうところに寛容なのか王位につくのを王族のみとはしていない。


「継ぐ分にはかまわないわよ。多少改革が必要になるから骨折りそうよね」

「ならば私は未来の王陛下近衛騎士筆頭になり、負担軽減に尽力しましょう」

「ユツィ、あなたはあなたの好きなように生きていいのよ?」

「十分好きにしてます。最初こそ国の命でしたが、今は私の意志で貴方の側にいますので」


 私の花、私の光。

 最初は名誉だ栄誉だと肩書に酔いしれたが、殿下と共に時間を過ごすことが最上の喜びに繋がっていき、この方の為に力を使おうと決めた。彼女は私にとって仕えるべき主を超えた唯一であり生きがいでもある。


「……詩人ね」


 ヴォックスと同じことを言う殿下の眉が少し寄った。何を悲しんでいるのだろう。

 と、きく前に扉が叩かれた。入ってきたのは王陛下付きの騎士だった。


「いかがされましたか? 王陛下に何か?」

「いいえ……王女殿下」


 硬い表情の王陛下付きの騎士が動揺を隠さずに殿下を見た。


「ええ、続けて」

「宣戦布告です」

「え?」

「……ウニバーシタス帝国から武力侵攻の布告がありました」


 私はたぶんこれを懸念してヴォックスの関係を進めたくなかったと、この時を迎えて気づくことになる。

金の薔薇→「希望」、デイジー(雛菊)→「貴方と同じ気持ちです」

おまえら早く結婚しろ\(^o^)/と思わせといてからの、ジャンル:敵対関係の持ち込みです!まだいちゃついてもいないけど突き落とす(落ち着け)。でも大丈夫、作者敵対関係大好物だから!

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