表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/54

おまけ 結婚して欲しい

「ユツィ、結婚して欲しい」

「今それ言う?」


 大怪我を乗り越え、忠誠を心の中で誓うステラモリスの公女が十歳下の男の子に救われ、その子を救う為に自ら追放刑を望んで執行された後だった。


「爵位も得てるし問題ないけど」


 クラスの新居、ステラモリスでの家を整えたり、第一皇太子派の反乱が起きないよう動いたりで忙しい中で言うものではない。落ち着いてから言えばいいのに、なんで今?


「領地はまだなんだがユツィと相談して候補地を決めて打診すれば概ね通りそうだ」

「いやそこを言ってるんじゃなくて」


 安心して欲しいという雰囲気を出されても困る。


「結婚は構わないけど、落ち着いてからにすればいいのに」

「しかし今日はユツィの誕生日だから」

「……え?」


 忙しさにすっかり忘れていたけど、誕生日を迎えていたらしい。

 そして本来は今でこそ爵位を賜った身だけど、元は第二皇子、その婚約者が誕生日を迎えるならそこそこな規模の社交界を開くのが通例だった。


「社交界は遠慮したい」

「今の情勢もあるから社交界は開かれない。だからせめて俺から何かをと思って」


 当然贈り物もあるし、いつもより豪華な食事もあると言う。


「シレとその恋人に聞いたら、結婚の話を待っているのではと言われたんだが」

「はい?」


 長年婚約者時代を過ごし、元々好き合っていたのに想い通じ合えず、やっと解決した所にステラモリス公国併合、遠征の増加による忙しさなど、怒涛の日々を過ごしていて、そういった結婚の話を出来ないでいた。好き合っているなら当然私はヴォックスの言葉を待っているはずだと弟殿下は考えたらしい。

 しかしここで訂正しよう。そんなことはない。むしろ忘れていたぐらいだ。


「結婚しようがしまいがヴォックスといる事には変わりないのに」

「女性は結婚という形にこだわるのでは?」

「一般的には気にするかもしれないけど、私はそうでもないよ」


 爵位すら気にしていないのだから。


「……そうか」


 いけない。ヴォックスが落ち込んだ。

 まあ忙しくてちょっと面倒な気持ちがあったから、それを悟られたのかもしれない。


「ヴォックス、気持ちはとても嬉しい」

「ユツィ?」

「ただ、その、そう、近くにいすぎてもう結婚していた気でいたというか、日々ヴォックスが贈り物をしてくれるし……ほら抱きしめもするから毎日が充実してる、みたいな?」


 フォローしたはいいけど、いまいち説得力に欠けていたかな?

 それでもヴォックスが成程と顎に手を当て納得したようだからよしとしよう。


「なら口付けよう」

「どうしてそうなる」


 誓いの口付けを今やるって?

 話が飛びすぎている。


「ユツィ」

「待って」

「いや、君に少しでも喜んでもらう」

「私が待てと言っているのに喜ぶ?!」


 ぐぐっと近づいているのに我慢ならず、ほぼ叫ぶみたいになった。


「遠乗りに行こう!」

「え?」

「さ、最近バタバタしすぎだったし、誕生日の贈り物は二人だけで遠乗りが、いい、か、な、って」


 さすがにこれは要求過多だっただろうか。

 ちらりとヴォックスの様子を見ると嬉しそうに背景に花を咲かせていた。


「分かった。今すぐ時間を作る」


 そこからは早かった。前の遠乗りの時もこんなだった気がする。


「なんで?」

「どうした?」


 再びステラモリスの境界に出た。最近は遠乗りではなく仕事でこのあたりに来ていたから不思議な感覚だ。


「ユツィ」


 大きなバスケットを出してくる。食事まで持参していたなんて用意がいい。


「あ、リンゴ」

「どうした? 剥くか?」

「いや、私がやるよ」


 するする剥いて適当に切って渡す。あの時と違って感情がぶれないから指先を切る事がなかった。

 暫く風にあたりながら長閑に過ごしていた時、ヴォックスがよかったと微笑んだ。


「ユツィとは二度と遠乗りに行けないと、初めてここに来た時思っていた」

「……あの時は仕方ないよ」

「ユツィ」


 するりとヴォックスの手が私の手を包む。

 いつもより少し熱い。まさか。


「ヴォックス、その」

「ここなら城の中とは違って人はいないし、来ない」

「そうだけど、」

「結婚を受け入れてくれるなら、口付けも受け入れてくれるだろう?」

「それは……」


 真面目にこういうことをきいてくるんだからタチが悪い。

 手に触れたまま、滲む瞳で見つめられる。ヴォックスの瞳に熱が灯っていた。

 本当いつも急だ。でも、その突拍子もない求め方も悪くないと思っている自分がいる。彼が長年温めていた想いが今ここで現れているだけ。前からずっと待っていた事。

 それが分かるのはきっと私だけだ。


「……分かった、観念する」


 第三皇子殿下の前では良い兄をしているのに、こういう時は甘えたの末の子供みたいだなと心内で苦笑した。


「ユツィ」

「……ん」


 再びこの場所で唇を寄せる。

 あの時はこれっきりだと思っていたのに私の考えるものと全然違う道を歩んだ。

 幸せに暮らしました、めでたしめでたしであれば、私とヴォックスの話は御伽噺のようだと思う。

 そんなことをこの真面目な男に話したらなんて言うだろうか。

こちらで無事完結となります!最後までお付き合い頂きありがとうございました!

次作は再び変態ストーカー外伝、シレとメイドさんのお話となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ