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50話 今更妬くなんて

 なんてことないように言う。少し不服だ。


「待て、店に入るところを見たと?」

「ああ、何の店かは知らないが」


 逢引きというやつ?

 けど私の見たという応えにヴォックスはなぜかほっとしているようだった。

 なんだろう。何かが掛け違っている気がする。私の思惑とヴォックスの思惑がすれ違っているような。


「ヴィー、あの店は? 何故あの女性と?」

「ああ、それは……」


 言えないと気まずさを出した。なんだ、モンスの言う通り浮気現場かなにか?


「話せない?」

「ああ、すまない」


 あっさり認めてきた。話せない相手と内容だと?


「言えない程やましい関係ということ?」

「違う……その、今はまだ言えないだけで」


 歯切れが悪い。初めて見る姿だった。


「俺には君だけだとか言ってたくせに」

「事実だ」

「……なら私以外の女性と逢引きする理由がある?」

「ん?」

「ん?」


 ヴォックスがぱちりと目を瞬かせる。なにか間違ったことを言っただろうか。


「ユツィ……もしかして」

「ん?」

「浮気だと思っている?」

「ええと、まあ……」


 私の渋々認めた反応に、口元を手で覆い視線を逸らした。まさか本当にやましいことが?

 視線が私に戻る。真っ直ぐした瞳だ。嘘をついていない。


「……ユツィの心配することはないんだ。ユツィの為でもあって」

「私?」


 頷く。


「俺の自己満足でもあるが」


 よそに新しい恋人作って満足? いやでもそうではないと言っていたし、瞳は嘘をついていない。


「けど私には言えない?」

「ああ、少し待ってほしい」


 なんだか余裕の体であるヴォックスに納得がいかなかった。このもやもや感はなんだろう。


「言えないけど浮気ではなくて待ってほしい? 女性と密会していたのに?」

「ああ」

「で、ヴィーはなんでそんな嬉しそう?」

「……ああ、ユツィが嫉妬してくれてるのかと思うと」


 初めてそういうことを言ってきたから嬉しいらしい。こちらはもやもやしているのに。指摘されて恥ずかしさが増した。


「手紙を届ける女性とさっきの女性は同じ?」

「そうだ。帝都の件は俺が不得手なので助けてもらっている」


 でも誰かは教えてもらえないと。

 しかも不得手ってなんだ。


「怪しい」

「やましいことはしていない」

「忙しいのにわざわざ出掛けられる余裕があるなんて」

「ぐっ」


 その言葉にヴォックスの肩が鳴る。忙しいから私との時間をとってなかったことに対して後ろめたさはあるらしい。


「私の為と言いつつ私との時間はない、ねえ」

「ユツィ違う」


 急に焦り始める。隠し事はしているけど、確かにやましいことではないとわかった。けど納得いかない。嫌な女になるけど引けなかった。


「私を構う時間はないくせに」

「それは」

「忙しいだろうから遠慮してたのに」

「だからそれは」


 まだ言い訳をしようとするヴォックスに苛立ってしまう。頑固者だから、この女性の事も出かけてる内容も話さないだろうけど、なんだか無性に言い返したくなってしまった。


「ヴォックスが構ってくれないなら結婚を先延ばしにしようかな」

「はい?!」

「一段落するまで時間がかかると言ってたね? 一週間につき一年延ばすでどう?」

「はい?!」


 代替わりを手早く済ませようとしたところで一ヶ月はかかりそうだ。つまり単純計算で行けば四年は先延ばしにするぞと言ってるようなものだった。本気で言ったわけではなかったけど、結局この後、私達の結婚は三年延びるので少し可哀想な事をしたかなと後々このやり取りを思い出すことになる。


「ヴィー、私は確かに嫉妬したよ」

「ユ、ツィ」

「散々ひどい態度をとってきたから今更妬くなんてどうなんだと思うかもしれない。けど、私はヴィーが好き。分かってる?」

「あ、ああ……」

「その気がなくても、私以外の女性と二人はやめて」

「ああ勿論!」


 この言葉通り、以後ヴォックスは私以外の女性と二人きりで会うことはなくなった。律義な男だと思う。


「ユツィ……その、」

「ん?」

「その、初めて、好きと」


 嬉しそうに目元を赤くして微笑むこの男、本当に私が嫉妬した事を分かっているのだろうか。

 なんだかこちらまで恥ずかしくなってきて赤くなるのが分かった。


「も、もう一度」

「え?」


 何を言っているのだろうか。

 期待を滲ませるヴォックスとは対照的にこちらは恥ずかしさが限界を超えていた。


「ユツィ」

「け、けじめは?」

「ああ……」


 一瞬諦めたような雰囲気を出して次にやっぱりと訂正する。


「もう一度」

「……」

「ユツィ」

「……ああもう。親善試合終わったらいくらでも言うから」


 今は駄目と伝えると、小さく落ち込んで諦めた。自分で言った手前もあるのだろう。

 というか、女性との密会を詳しく話しておかないまま終わっている。その密会も親善試合で明らかになったからよかったものの、無駄にここでグズグズする必要は全くなかった。相変わらず真面目で難儀な男だと思う。

まあ今までの事はさておきとして(個人の何某ではなく社会情勢ですれ違っていたわけなので)、今まで自分一筋の男性が隠れてこそこそしてたら、そりゃ疑いますよねって(笑)。大丈夫、すぐに分かります。嫉妬は美味しいので無問題(´ρ`)

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