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5話 気持ちの自覚

「ユラレ候補生、手紙だ」

「はい」


 蛮族掃討戦からすぐ、私が報告をあげるまでもなく耳にしていた両親が手紙を寄越した。


「……」

「ユツィ?」


 隣のヴォックスが私の違和感にいち早く気づく。


「……ヴィー」

「ああなんだ?」

「……やった!」


 何をというヴォックスに手紙の二枚目を見せる。

 本来は正式な封で来るべきものを敢えて普通の封の二枚目に入れてくるあたり、さすが私の両親と言うところか。驚かせる事に見事成功している。


「王族付き、王女殿下の騎士になれる!」


 この間の蛮族掃討戦の功績から、王女殿下付きの騎士に任命するという内容だった。二枚目の公的な名文にヴォックスも深く頷く。


「おめでとう」

「ありがとう」

「ユツィが目指していたものだったな」

「そう! 王国の花に仕えられる!」


 当然学舎の全ての課程を修了してからにはなるが、それでも休みの日や長期休暇期間は王城勤めになるだろう。こんな早くに国に貢献できるとは思ってもみなかった。

 レースノワレ王国では誰しもが騎士であり、騎士として栄誉の頂点は王族付きの騎士になる事だ。騎士の頂点が王である、その頂点に仕えられるという安易な発想からきているが、国を治める王族は国民に好かれ絶大な人気を誇っている。のでやはり栄誉になるのだろう。


「次の祝日で叙任式か」

「王女殿下への御目通りもこの日になる」

「楽しみだな」


 大きく頷く私にヴォックスが微笑む。一瞬、何か思慮を巡らせる素振りが見えたが何も言わなかった。


* * *


 次の休日、叙任式を済ませ、王女殿下へ御目通りとなった。

 新しい戦い方を学ぶ私は元々王女殿下の目に留まっていて、武功をあげればいつでもという状況だったらしい。非常に喜ばしいと同時に驚いた。

 王女殿下は四歳年下の可愛いらしい少女にも関わらず、瞳には一国を背負う者としての決意の光が見える。無邪気なようで思慮深い少女だった。


「二人きりの時は名前で呼んでね」

「しかし王女殿下」

「ファーブラって呼んで。愛称でもいいけど?」

「愛称など」


 ファーブラ・ドゥーナム・モナルカ第一王女殿下、王位継承権第一位の少女は私の焦る姿に子供らしからぬ上品な笑顔を静かに称える。

 これは人を下がらせた場で最初に話された言葉だ。同士であり友達であってほしいという可愛い願いだった。本来仕える身である私が気軽に呼ぶのは間違っているが強い要望に頷いてしまう。頷かせてしまうような言葉の力がある人物だ。


「私はユツィって呼ぶわね」


 あっさり懐に入って甘えてくる。妹が出来たみたいで私は少し舞い上がっていた。もしかしたら私は年下に弱いのだろうか。

 厳かな叙任式とは異なり王女と気軽に話すバルコニーの陽の光が眩しい。浮ついたような喜びに、御目通り出来る緊張感、そして一目見て気に入ってしまった可愛い少女との出会いは不思議な時間だった。


「というわけだ」

「ああ、改めておめでとう」


 学舎に戻り真っ先にヴォックスに報告した。外、秘密の場所で訓練中だった彼を捕まえ、近くのガゼボであったことを全て話す。興奮気味の私の話を静かに頷きながら最後まで聞いてくれた。そして話の最後にいつの間に用意したのか一つの箱を渡される。


「俺からの祝いだ」

「私に?」

「ああ」


 箱を開けると薔薇がおさめられていた。

 赤い薔薇が十二本、綺麗に咲き誇り、汚れや痛みもなく枯れる気配もないような鮮烈な印象を受ける。


「弟に枯れないよう魔法を施してもらった」

「ヴィーの弟君は優秀だね」


 余程魔法の才があるのだろう。ほぼ永久に枯れない薔薇を作り上げるなんて想像出来ない。

 しかし花とは意外だ。ヴォックスの事だから祝ってくれるにしても新しい武具でも用意してくると思っていた。こんな、恋人に渡すような甘い贈り物をされると思っていなかったから驚くも純粋に嬉しさが勝る。


「ありがとう、ヴィー」

「ああ」

「嬉しいけど、え?」


 赤い薔薇は十一本は茎もついたもので花瓶にも飾れるようにしていたが、その中の一つは違った。花だけのものを一つとって、ヴォックスは自然な流れで私の左耳より少し上の部分に薔薇を添えた。元々加工してあるのか花飾りになっていたようだ。髪におさまった赤い花を見てヴォックスが目を細める。


「良く似合う」


 私に花は似合わないと言おうとしたところだった。思わず口を噤んでしまう。あまりにもヴォックスの表情が満足そうで言うのが憚られたからだ。

 細めた目元が僅かに赤い。なんてことないように贈ったくせに今更この男は照れているのか、満足そうに微笑むだけでそれ以上何も言わなかった。妙な雰囲気に恥ずかしさが迫り上がる。


「……大事にする」

「ああ」

「ヴィーが昇進した時は、私からも何か送ろう」

「気にするな。これは俺が好きで勝手をした事だ」


 この瞬間がヴォックスを初めて異性として意識した瞬間だった。そして無自覚が自覚へと変化した瞬間だった。ヴォックスの隣を陣取りたい気持ちも、彼を他よりも深く理解していると自負したいのも、全部、彼への好意によると、やっと気づけた。たぶんその時の私の顔は相当赤かったと思う。

赤い薔薇→「あなたを愛します」、十一本→「最愛」、十二本→「私と付き合ってください」

薔薇を王道で使いたかったんですよー! ヴォックス単体じゃ絶対閃かないようなやつを(ひどい言い様)。そしてしょっぱなから好き合ってんじゃんって無自覚に自覚が入り込んできました。非常に美味しい(´ρ`)

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