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48話 じゃあ修羅場なし?

「もー。ならいちゃつきつつ、団長の動向を見てて下さい」


 最近、副団長気緩んでるから気づいてないだけですぐ分かりますよとモンスが唇を尖らせる。気が緩んでいるとはっきり言われると結構痛手だ。


「分かりました」


 モンスと窘める声が届いた。マレがヴォックスと話を終えたらしい。

 やけに嬉しそうにモンスが立ち上がってマレと共に去っていく。


「じゃおれ達行くんでいちゃついて下さい」

「モンス!」


 本当にどっちなのだろう。

 二人が去ってから暫し沈黙の後、話を振ってみた。


「いちゃつく?」

「っ?!」


 ぶふっとヴォックスがむせた。

 息を整えてこちらを見やる。


「きちんと申し出をすると」

「結果が見えてるなら少しくらい触れあっても」

「駄目だ」

「今までのは?」

「ぐっ……」


 正直、浜辺の抱擁は殿下に会えて気持ちが上がってただけと言えばそれまでだった。改めて婚約を申し込まれると言われても、今からどう付き合えばいいか分からない。殿下の言う通りヴォックスを許して抱き締めた現状では一段落しただけ。意地を張らなくなったという点では大きく進展したのに、ヴォックスの言うけじめまでどう過ごせばいいのか、むしろその先もどうしたらいいのか。ううむ、これは永遠に悩み続けることになるかな?


「結婚って必要かな?」

「は?」


 おっと、ヴォックスがいつもの比でない驚き方をしている。

 関係が変わるわけでもなく、ヴォックスの父親が皇帝になるなら政略結婚も必要ないのでは?

 レースノワレの残党は奮起していないし、その意思はないといくらかの王国民に確認している。今のまま変わらないならこのままでもいい気がした。


「婚約破棄は嫌だ」


 端的にヴォックスが拒否を示す。


「ユツィを独占したいと何度も言っただろう」

「まあそうなんだけど」

「……外に出るか?」

「忙しいのに?」


 ユツィが変な気を起こさないなら時間を作ると言う。


「いいよ、仕事を優先して」

「……そうか」


 それよりもなるたけ早く次代へ変わらないと。手負いの獣程なにをするか分からない。

 それに自分からいちゃつくかときいたものの、モンスの言う女性の事が気にかかって躊躇いが生まれた。触れ合いたいのは事実だけど。


「ヴォックスは怒らないの?」

「なにを?」

「王女殿下が生きてただけで掌返したように許すなんて都合良すぎと思わない?」


 自分で言うのもというところだが、ヴォックスからしたら思うところもあるのではと思ってしまう。

 煮え切らない私の態度に嫌気が刺して別の女性にと一瞬頭をよぎってしまった。いけない、モンスの言葉に振り回されているな。


「……彼女の生死の真実を告げないと決めた時にユツィに許されないと覚悟したから、今許してもらえてるだけで良かったと思う」

「それだけで今の私を許せる?」

「ああ」

「…………ありがとう」


 真面目な男だ。たぶん彼でなければ許されなかっただろうし、早々に婚約破棄されていただろう。


「訓練にいってくる」


 こちらは任せてくれと言うと眉根を下げた。それでも謝るのではなく感謝してくれるのは嬉しい。



* * *



 確かに毎朝フードを目深に被った長い外套の人物がヴォックスに手紙を届けていた。

 割と人目に付かない場所で渡している。いくら顔や姿を隠していても女性だと言うのは確実だった。


「モンスの言う事は正しいようです」

「お? 問い詰めました?」

「いいえ」


 何日かヴォックスの様子を確認したところ、毎日女性から手紙をもらい不在にする時間がある。モンスの言う通りだった。

 訓練の休憩中、真実はどうあれ事実だったことを報告するとモンスは今すぐ団長の元に行きましょうと言う。それを渋っているとマレが間に入ってきた。


「モンス、お前また余計な事を言っているな?」

「えー? だってマレだって気になってるっしょ?」

「事情を知らないまま適当な憶測で他人に話すなと言っているんだ」


 確かにその通りだ。

 女性から手紙を受け取っていること、決まった時間に不在にしている。この二点だけが事実で、中身は分からない。


「副団長もあまり気に病まないでください。団長が副団長だけなのは周知の事実ですから」

「なのに進展ないのつまらなくない?」

「モンス!」


 モンスがぶーぶー言い始める。マレが呆れたように肩を落とした。


「確かにヴォックスは真面目な男だから、おかしなことはしないと思います」

「副団長が理性的な人でよかったです」

「え? じゃあ修羅場なし?」

「あってたまるか」

「お前バカかよ。修羅場からの仲直りで良いいちゃつきが見られるんだからな」

「見る気かよ」


 笑顔で指をぐっと掲げた。

 どうやらモンスの中でいちゃつくと修羅場がセットだったのはこの為らしい。どちらかではなくて喧嘩からの仲直り、その後いちゃつくという流れがベストだと。


「だって最高じゃん?」

「自分でやれ」

「えー」

騎士の中にも作者のようなオタク脳がいてもいいと思います(笑)。まあ私は修羅場なしのいちゃつきで充分なんですがね~。修羅場の後いちゃつきも、いちゃつきのみおいしい。

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