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45話 令嬢たちだけの内緒話

「……分かりました」

「随分間があったけど」

「ええ」

「きかないの?」

「殿下がお決めになったことですので」


 私に知らされてなかったのも仕方ないことだ。恐らくヴォックスはレースノワレ王族全滅で皇帝に報告をあげている。漏洩の観点から知るべきは当事者のみにしておくのが最善だろう。正直何故黙っていたという気持ちもある。けどヴォックスも何も言えずに悩んでいただろうことは過去のやりとりからなんとなく分かった。


「察しがいいのは相変わらずね」

「殿下の意志を尊重します」

「貴方を悲しませたことには変わりないわ……ごめんなさい」

「謝らずとも」

「いいえ、私は誰にも伝えなかったもの」


 あの時共にいた侍従や侍女や護衛を離れさせ、死んだと思い込ませた上で国を去った。


「それからのことは彼から聞いていたのよ」


 眉を下げる。手紙のやり取りを続けていたのだろうか。ヴォックスに視線を寄越しても軽く頷かれるだけだった。

 殿下の不在で生きる屍と化し、戦いでは常に前線でどこかで死を迎えようとしていた私は生きることを優先する約束を果たしたとは言えないだろう。

 殿下がお怒りになってもいいぐらいに。


「……」


 でもまさかこの三人で話す時が来るとは夢にも思わなかった。


「殿下が生きていれば充分です」

「ユツィ」

「殿下とこうしてお会いできただけでも幸せです」

「ユツィったら」


 困ったように眉を下げたままだったのが、閃いたとばかりに口許が弧を描く。切り替えるのはいいことだけど嫌な予感しかしない。


「んーまあユツィと彼との子供も見たかったし?」

「え?」

「あわよくば私も同じ時期に生んで幼馴染み~とかしたいのもあるわね」

「で、殿下っ!」

「鋭意努力します」

「ヴォックス!」


 私の叫びは通じず何故か二人で盛り上がり始める。

 いくら話題を変える為といっても、この手は勘弁して欲しい。


「片方男の子で片方女の子なら許嫁にしちゃう?」

「成程、それは」

「ヴォックス! 殿下も!」

「なによーノリ悪いわね」

「私達は結婚してません! 婚約してるだけ!」

「えー? 結婚するんでしょ?」


 お腹を抱えて笑う殿下は年頃の少女のままだった。いやもう立派な伯爵令嬢なのだが。


「あ、そうそう。今度の親善試合、正式に見に行くから」

「え?」


 親善試合という言葉はしっかり覚えている。私がヴォックスに負けた試合で、婚約が決まった記憶に深いものだ。しかしあれは皇弟が主催者のはず。今やる必要があるだろうか。プレケスについては争いなく併合した。蛮族掃討もほぼ犠牲者なく帝国に吸収し、私の一件は大きな争いを止めた武功として祭り上げられている。より権力を見せる為とは言えない。となると、直近ヴォックスが伝えてくれたことが有力だった。


「変わる?」

「あら。ユツィ知ってたの」

「ええ、彼から聞いていました」

「そういうことよ。私は暫く港を管轄してる皇弟派の貴族の家に厄介になるわ」

「殿下……」

「ついでに未来の夫探しでもしようかしら」


 聞き捨てならない言葉を耳にする。もう口を出す権限はないだろう。けど相応しい相手でないと殿下の将来に関わる。これは由々しき事態だ。

 ならばやることは一つ。私が相応しくない異性を近づけさせなければいい。


「私が殿下の護衛に着きます」

「えー? いいわよー」

「護衛に着きます」


 今後は手紙でのやり取りとなり、その存在が知られないようにするための確認をし別れとなる。さすがに長い滞在は疑われるから仕方ない。


「ユツィちょっと」

「はい」 


 立ち上がったところで殿下の隣に立つよう言われる。懐かしい場所だ。


「で、男二人は出ていって」

「え?」

「は?」


 男二人の背中をぐいぐい押して、あっちで何か飲んでなさいと言って扉を閉めた。押しが強いのも変わりない。


「殿下……」

「淑女だけで話したいこともあるでしょ」


 隣に座るのも久しぶりだった。懐かしさに眩しさを感じる。


「殿下、何か?」

「んー、まあ積もる話もしたいけど……その前に名前」

「はい?」

「名前で呼んでくれないの?」


 今は同じ伯爵令嬢でしょ、とも。かつては二人きりの時に呼んでいた。懐かしさに一瞬言葉が詰まる。


「……ファーブラ」

「ええ、ユツィ」


 満足そうに目元を緩めた。変わらない笑い方だ。


「で、あの騎士団長のこと好きなんでしょ?」

「そこですか」

「あっちも貴方のこと好きじゃない」

「いやそれは……」


 殿下は私とヴォックスが旧知の仲だと知っている。挙げ句私の想いまで把握しているので分が悪い。


「団長さんはユツィのこと悪く言った試しもないけど、今まで認めてくれたことがないから努力してるってことは聞いてる」

「何のやり取りなさってるんですか」


 戦後における生活の状況確認とか命狙われてるかとかいつのタイミングで生存を名乗り出るかとか、そういう難しい話をしているんじゃなかったの。


「どうしたらユツィが喜ぶかきかれたわよ」

「ヴォックスめ……」


 形振り構わずやってるな。

 殿下を巻き込まないでほしい。実際楽しそうだから許してしまうし。


「いっそ押し倒したらと言ったわ」

「なんてアドバイスしてるんですか!」


 幸い押し倒されたことはない。押し倒したことはあるけど。


「いいじゃない。好き合ってる者同士で結ばれるってすごく幸せなことよ?」

「しかし、」

「どーせ今の今まで私を守れなかったからとか団長さんが敵だからとか難癖つけて告白受けてないんでしょ」

「ぐっ……」


 今までの状況を客観的に伝わっていれば私が何を思ってヴォックスの想いを受け取らないかは分かってしまうだろう。殿下は元々聡い人だから尚更だ。

手紙の内容のやり取りなりふり構わずな部分は、ヴォックスとユツィの話で (っ'-')╮=͟͟͞͞ (シリアス) ブォン できる部分ですかね。ツッコんだユツィの気持ちは充分分かりますわ(笑)。

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