41話 プレケスの英雄の誕生
「……ヴォックス」
完全に目覚めた時、ベッド側には座ったまま眠るヴォックスがいた。外は日が暮れ、夜の帳が降りようとしている。
ヴォックスがゆっくり瞳を開けた。
「ユツィ」
「どれくらい経った?」
声は多少なりとも改善している。これなら問題ないだろう。窓の外に視線を寄越したまま問うと、数時間しか経っていないと返答がある。
公爵との話し合いも済み、蛮族との交渉も進んでいるらしい。明朝プレケス境界で話し合う約束だが、この分だと降伏するだろうと言う。
「ヴォックス、私も行く」
「……ああ」
否定しないあたりよく分かっている。降伏から戦闘に変更してくる可能性がある以上、こちらの面子は万全だとアピールする方がいい。特に今回のかく乱させた張本人である私が健在だとアピールするのは丁度いい牽制だろう。
「ユツィ、無事か?」
「ええ、勿論」
手当をしてくれたのは彼だろうから誰よりも分かっていると思う。変な事を聞くなと思っていると眉間に皺を寄せた。お説教の時間が来るだろうかと思い、彼の言葉を待つ。
「……ユツィ」
「?」
上半身を少し屈みベッドへ乗り出してきた。左手で顔の輪郭を確かめるように撫でる。
「……君は本当自由で、どこかに行ってしまう気がする」
「それはないよ」
目を細めてそうだなと囁く。
ゆっくりとした動作で静かに額を私の肩に埋め腕が背中に回った。よかったという囁きがきちんと耳に入る。
今回は厳しかった。彼と直接斬り合った時程ではないにしろ、会えないかもしれない事を頭の片隅に置いて戦っていたから、今とても安心している。それはヴォックスもなのだろう。
遠慮がちに右手で彼の背に触れてみた。すると、驚くぐらいヴォックスの身体が跳ね、がばっと距離をとってくる。自分から来たくせに顔を赤くして。しかも私が触れた途端離れるのはなに? 迂闊に触れてしまったとでも言いたいのだろうか。そんな気まずさを出していた。
「ヴォックス」
「……謝らない」
「いや、その必要はないけど」
「分かってはいるが心配なんだ」
「分かってるよ」
「ユツィを失いたくない」
眉を下げた。彼に甘えている事も充分自覚している。今回だって、これだけ無茶をすることも念頭にあったはずだ。それを許し単騎 (二人側付きでいたが)向かわせてくれた時点で甘やかされていると思う。
「そういえば、この布は」
傷が深かった左腕に巻かれている布の端に見覚えのある刺繍があった。
私が王女殿下と一緒に縫ったもの。ヴォックスに祝いで渡したものだ。
「折れてはいないが念の為固定しておこうと。止血も兼ねて」
「持っていたのか」
「いつも持っているが?」
「……」
ああなるほど、この感覚か。
ヴォックスが渡した薔薇を持っていてそれを使った社交界、いたく嬉しそうにしていたのを不思議に思っていた。今やっと分かってしまう。
彼の事を考えてあげたものを大切にしてもらっているというのは、こんなにも心動かされるものだったなんて。
「ユツィ? もしかしてきついか?」
「……いや、なんでもない。洗って返す」
「?」
「……では、食事はどうする?」
私の挙動不審に首を傾げていたヴォックスが少し間をとって静かに誘いを設けてきた。気を遣ってくれたのかもしれない。
「食べられるけど、プレケスの人から」
「済んだ。余りがある」
「頂こうかな」
なら一緒にと微笑む。部屋で一緒に軽く食事を取った。
* * *
その後、皆の前にも出て、蛮族との話し合いも済ませる。
そしてウニバーシタス帝国に帰ると、なぜか私の単騎出陣が偉業として祭り上げられていた。私だけの功績にもなっていて首を傾げる。私は視察団が来るまでの足止めの役割で本来この記事のように扱われるものではない。私の働きが直接蛮族との話し合いにケリをつけたのではないのだから。
「ヴォックス」
「事実だろう。これでいい」
名前を呼んだだけで回答が返ってきた。この男、団長である自分の功績になる事を全部私の功績としたな。話し合いで蛮族と折り合いをつけ、プレケスの併合を早めることが出来たのはヴォックスだというのに。
「……相変わらずだね」
「それはユツィの方だろう」
「はは、違いない」
笑うと苦笑で返される。勝手なのはお互い様だ。
一人で100人はすごいと思うけどもねえ(笑)。忍者や中国双刀使い、大剣使いと中々ファンタジーの王道を倒したんだけど、ユツィ自身に自覚はない。
まあこちらのメインとしては心配性ヴォックスの肩ズンなわけなので!(笑)。肩ズン(´ρ`)ウマー




