40話 プレケスの英雄戦 終
「!」
鐘が鳴った。火事等の危機に際して鳴らす鐘。今回は大事な合図だ。
残りは速さも強さも手練れ二人には及ばない。ここぞとばかりに一回転してみても私の速さについていけず二人昏倒させた。
多少士気はさがっているようだったが、それでも向かってくる正面の男の胸元の防具を突きむせ混んだところを蹴り飛ばす。
一際多くの人間が雪崩れ込んできた。
「……来たな」
右側から潰していくために一人目の剣を叩き下ろし、その間に振り下ろされた二人目の攻撃を左の剣で受ける。すぐ右の剣で左の防御を強め、一人目の顔面に蹴りを食らわせ倒した。
目の前の男は右の剣をうまく使ってこちら側へ引き込み、米神に柄を当てて昏倒させる。
その身体が完全に倒れる前に蹴り飛ばして後ろに控えていた敵の動きを止めた。その男を踏み、さらに奥の男も踏み台にして人混みの中、飛んで剣を振り下ろして二人程倒れる。
胸元へ自身の腕を引き寄せ大きく開いた横一線で一人のみぞおちに入り落とし、態勢が崩れた男の隙間を駆ける。
最後の一団が入りきった通路の側、倒れた男とあらかじめ設置していた荷物を足蹴に一気に駆け上がり、右の剣を追いかけてくる男に投擲、二階建の屋上に手を掛ける。
屋上にいた騎士が顔をのぞかせ目が合う。次の瞬間、派手な音を立てて広場の床が崩れた。悲鳴と共に落ちていく蛮族数十名。その崩落は目下の広場から狭い通路を続き、最初の広場まで巻き込んだ。
つまり倒した蛮族と先見後発隊も全て巻き込み地下に落ちたことになる。後発隊全て含めたら戦える人間は百ぐらい落ちたかもしれない。
「副団長」
「……ええ」
力を貸そうと手を出した騎士に応える為に剣を腰に戻して手をさしだす。と、別の手が伸び私を掴んだ。
「だ、団長?!」
「間に合った」
場を譲りヴォックスに引き上げられる。屋上で再会すると不機嫌そうな顔で見下ろされた。分かっていても納得は出来ないかな。軽く目配せすれば屋上に控えていた騎士は素早く場を後にした。
「時間稼ぎには丁度良かったでしょう?」
声が枯れていた。叫んでもいなかった戦いの時間、息をするだけで喉を痛めていたらしい。必要だったとはいえ過剰労働だったことは認めよう。
「……無茶をしすぎだ」
傷だらけじゃないかと咎められる。
気づけばあちこち斬られていた。動いてる時はあまり気にならなかったし、こちらは鞘におさめててもあちらは剥き出しの刀身でくるから仕方ない。左肩は割と重かったが他は軽い切り傷だ。
「分かってたでしょう?」
「……」
「他の騎士を責めないように。これは私の独断だから」
「……分かった」
この場を離れようと言えば素直に頷いた。
「このあたりは開発途中でね。地下に大きな食糧庫を作るというので地下に穴があった」
周囲の建物も倒壊予定だったから丁度良かった。今回投入される蛮族全てを残らず捕らえるにはギリギリまで数を減らし、奥まで引き寄せる必要がある。かつ私が戦いやすい状態にするにはここを使うのが最善だった。思っていたより一騎討ちにはならなかったが、全員峰打ちにしたし死者は出ていないだろう。
「ユツィのおかげで全員生かしたまま捕らえることが出来た」
「それはよかった」
ヴォックスが私の考えることを読んだのか結果を話してくる。敵であれ、出来るだけ生かしたかったから最高の結果だ。
「あ、」
「……ユツィ」
ふらついたところをヴォックスに支えられる。血が流れすぎたか。今すぐにでも抱えたいだろう顔をしたヴォックスが見えた。
「まだ、もう少し」
「……分かっている」
最後にやるべきことがあった。
私と彼が向かった先は公爵邸、プレケスの民が集まる場所だ。
邸宅が見えてくると騎士や戦える者達が外に出ていた。
私たちを見留めて門の前まで辿り着けば周囲がわく。
「ユツィ」
「……ええ」
剣を鞘ごと頭上に掲げる。
瞬間、場に歓喜の声がこだました。
余計な言葉はいらないだろうし、言える状態でもない。けど蛮族に勝ち得たことは証明した方が最善だ。こちらに分が傾いたこと、士気をあげることを考えたら私が余裕をもって戻ってくることが最低条件。それをこなせてほっとする。
「公爵」
プレケスの代表であり、この邸宅の主である公爵が出てきた。あまりよくは聞こえなかったが、お礼を述べ深々腰を折る。そして中へ促され、避難した多くの民に安心を与えるために微笑みかけたりしながらゆっくりと進んだ。
さりげなくヴォックスが腰に手を添え歩かせてくれるからどうにか歩けたと言っていいだろう。既に身体はガタがきていた。
「着替えてから伺います」
「ええ、お待ちしてます」
与えられた客間に入り、ヴォックスと二人きりになったと認知した瞬間、膝が折れた。すぐにヴォックスが支えてくれる。
「……ありがとう」
「…………」
ヴォックスの口が開いて何かを言っているのに言葉が耳に入らない。耳や頭部への攻撃はなかったから単純に疲労と血が足りないからだろう。
「……後は任せていい?」
眉間に皺を寄せたまま頷く。了承はとれた。小言は後できくとしよう。ふわりとした感覚でヴォックスに抱えあげられたのがわかる。
「……」
その後から記憶がまだらだ。
時折傷が痛んで意識が戻ると近くにヴォックスがいたことくらいしか分からない。この状況を見せたくない気持ちを察しているだろうから侍女はいれてないはずだ。団長であり立場もある彼にそこまでしなくていいと言いたかったが、彼のことだから嫌でもやるだろう。
長い殺陣にお付き合い頂きありがとうございます!
ユツィが自ら斬った人数は100人、落とし穴に落とした数を合わせると200人。
単騎でよくやったね(笑)。そしてヴォックスは相変わらず心配性。お姫様抱っこも無事今作クリアですね!




