34話 早く来て
「よし」
予想より早く半日で到着した。
プレケスの半分は攻められてそこは壊滅状態、夕暮れ時で少し退いたのか蛮族の姿が見えない。最前線に辿り着くと僅かに蛮族が残っていた。それを叩きのめして帝国の人間だと名乗りをあげる。ついでに視察団や援護軍がくることもきかせて退ければ、倒れた者を連れてあちらの本拠地に戻っていく。すぐに情報が回るだろう。
「副団長!」
先に潜入していた騎士が私に気づいた。はったりをきかせるように言い、他の騎士や戦える住民に内容の伝達を頼む。
既に辺りは暗くなってきたから程なくしてプレケス内にいた蛮族は全員引いたようだ。
「ウニバーシタス帝国騎士団ユラレ副団長」
公主と合間見え、主要な騎士や住民を集めて早速会議だ。
「恐らく日の出と共に攻めに来るでしょう」
「数は」
「全体の半分か三分の一程ではないかと」
そもそもはったりきかせて視察団が来ると耳に入ったとして大人しくなるような者達は集まっていないのだから間をあけず攻めてくるのは容易に想像できる。
「こちらで戦えるのは五十もいるかどうかです……負傷した者が多く」
「問題ありません。私単騎で行きます」
「え?」
足止めが今回の目的であれば時間を稼げばいい。それにプレケスの住民は避難先である公主邸宅を守った方がいいだろう。
「副団長、それは駄目ですって」
「そうですね。いくらウニバーシタス帝国の騎士様と言えど数が違いすぎる」
「最善だと思いますが?」
ここまで攻めたのであれば、なにもしないなんて選択をしたくないはずだ。全軍突撃とはならないまでも最低限偵察も兼ねた形でいくらか攻めてくる。
「しかし準備が必要です」
「え?」
「プレケスは路地通りが狭く入り組んでいて迷路のようになっていますね」
「え、ええ」
「開発途中の場所もあります」
「副団長?」
先を求められ簡潔に応えた。
「私、一騎討ちは割と得意なんです」
「……強制的に一騎討ちできる状況にしろと?」
「ええ」
さすが同じ騎士団にいるだけあって私の考えることをよく分かっている。
「狭い路地に追い込んで各個撃破します」
その為の最適なルートがどこか決めるには住民の力が必要だった。分かれ道は片方潰しておかないといけない。
かつ地下に食糧を貯めこむ習慣があるプレケスにおいて地下の空洞を活かすことがなにより必要なことだった。
「この後すぐの先見隊を退かせれば今度こそ様子見になるでしょう。時間が稼げますし、帝国視察団も追い付きます」
黙って籠城戦をしてもこちらが不利なことはよく分かっているようだ。プレケスからすれば帝国の騎士が一人失われようが構わないはず。それに私にはやれるという自負もあった。
「……その地域に詳しい者と技術者を集めましょう」
「ありがとうございます」
「……副団長……」
呆れた様子で私を見る帝国の騎士達に笑って誤魔化す。
「私は上に立つことに向かないですね」
「いいえ、そんなことありません」
我々も付き合いますよと笑う。
「でも団長に怒られたくないんでうまくやってください」
「ええ」
突貫工事が始まった。同時私を追ってきた二人の騎士が辿り着く。
「はあああ?!」
「なんですか、その無謀な策?!」
目を離すとこれだからと頭を抱えられる。
「当日は二人にも動いてもらうから結構骨が折れますよ?」
「まあそうでしょうけど……全部副団長のいるとこに誘導するって、そのまま副団長の負担になるだけですよ?」
「それが最善でしょう」
「あーもー! 分かってたけど団長ちゃんと宥めて下さいよ?!」
「勿論」
決定された作戦を飲んでくれて感謝だ。ヴォックス達が来るまで時間稼ぎといこう。
* * *
翌朝の早い時間だった。
「奴ら攻めてきました」
予想通りだ。問題ない。
「数は分かりますか?」
「おおよそ百か百五十ぐらいかと」
温存してきた辺り慎重だ。後にさらに投入する分があるとして四百ぐらいはこの戦いで導入されるだろうか。そうなると蛮族の総数は六百ぐらいいるかもしれない。
「副団長、準備はできていますが……」
「ええ、始めましょう」
「……いいんですか?」
「当然」
ここに単騎で来ると決めた時から覚悟の上だ。
当然ヴォックスも私が大人しくしてるなんて考えてない。
「見物ですね」
「副団長?」
ようは私が動く前にヴォックスがプレケスに到着すればいいだけの話だ。遅れたので私の勝ち。けど。
「早く来て……ヴィー」
周囲が言うよりも深く理解しているつもりだけど、今回ばかりは本当に危険な賭けだ。私一人でどこまでやれるか。最後まで到達して作戦通り大きく蛮族の戦力を削げるか。
大一番が始まった。
明日からはひたすら殺陣、ということで40話まで一気UPです(笑)。概ね2時間間隔目安で予約投稿にしておきます。40話にはヴォックス出てきますので!




