33話 プレケスへ
プレケスに視察に行く道中、急な知らせが入る。
「プレケスが襲撃されました」
「現状は?」
プレケスを狙う蛮族掃討につき周辺国のルート潰しをしていた。その行程の途中で蛮族がプレケスを襲撃し始めたという。
「焦ったか」
「武器と食糧が入らなくなったので尽きる前にという形で動いた可能性もあります」
「数も想定より少なく、森に潜んでいる者も含めて低く見積もっても三百はいるという話です」
元々当初の予想では千を超える予定だった。他の蛮族、周辺国の人間を取り込んでの見積もりだからその途中までと考えれば三百は妥当だろう。もう少し多いかどうかというところ。
「しかしプレケスには抵抗する力が、武力が乏しい」
「はい。ですので押されています。程なく公主邸宅に籠城戦となるでしょうが、奴ら交渉もせず火を放つ可能性もあります」
先にプレケスに潜ませていた帝国密偵の報告によると、こちらの動きを察して待ち構えてることはないようだった。
けど我々がプレケスを視察することは耳にしてる可能性がある。我々視察団を待ち構えていないとなると到着するまでにプレケスを制圧する算段か。
「プレケスから書状はきてるか?」
「はい、帝国の支援を求める内容が早馬で来ています」
「分隊一つ先見で行かせるか」
「いいえ、団長。私が行きましょう」
「え?」
妥協しても私と少ない騎士を引き連れて行くかだ。
私一人、今なら一日でも経たずに着けるはず。
「足止めが出来ればいいでしょう? 半日から一日、撹乱させて混乱を招き、そこに視察団が到着すれば三百程度掃討可能では?」
「一人が三百を相手にするなんて無茶ですよ副団長」
「勿論、プレケスにいる住民の助けは借ります。あくまで撹乱するだけです」
まあ敵兵は多少減らす気ではいるけど。勿論そんなことは言わない。
「それよりも援軍を頼んで下さい。遅れてきたとしても、戦いの現場でははったりになるでしょうし」
「援軍は手配済みです。帝国の馬なら数刻ずれこむだけで間に合います」
「なら行けますね」
「駄目だ」
だんまりだったヴォックスが口を開いた。私が単騎行くことに首を縦に振らない。
「一人早馬を走らせ情報を伝えるのは常套でしょう。帝国騎士がごまんと来ると吹聴して慌てさせてやればいい。伝令係も兼ねて行けば一石二鳥ですし」
「……駄目だ」
絞り出すような物言いということは私が単騎で行くことの利点も分かっている。見かねて分隊長のモンスが口を挟んだ。
「副団長、貴方一人で行ったら戦うでしょう? 団長はそれを懸念しています」
「やるとしても襲われている民衆を助ける為ぐらいでしか動きませんよ」
襲われていれば当然間に入って民衆を助け逃がす。数人なら相手ができるし牽制するだけだ。
モンスが呆れたように息を吐いた。
「それだけで終わるわけないじゃないですか……」
ううむ、ばれているかな。一人で三百は倒せないと分かっている。けど出来るだけ減らす気ではいた。何万の中に突っ込んでいくわけではないから許されると思っていたけど、さすがに無理なようだ、妥協しようか。
「なら今回は約束ましょう。民衆を助ける為やむを得ない場面でしか戦わない。役目は伝令と民衆を救うことを優先し、蛮族には偽の情報を与えて混乱させ、視察団が来るまでの足止めを行うのみ。これでどうでしょう?」
「副団長……それもう戦うって言ってるようなものですって」
「……」
あれ?
足止めという部分がだめだったかな。信用されていないらしい。
「最悪、こちらとしては団長と副団長二人が一緒に動かなければ結構ですが」
「あと副団長の精鋭つけた方がいいですよ」
一緒に行きたそうなヴォックスに釘を刺した。ヴォックスの精鋭たちは彼のことをよく分かっている。ついでに私のことも分かっていて、私の意思を尊重した上で最低限の安全を考えたプランを考えてくれた。
「……分かった。三人で先にプレケスに行くならいい」
「はい」
私の馬は早馬というわけではないが、そこらの馬よりは断然早く、戦いでは持久力といった馬力が桁違いだ。その分気難しい性格らしいが私はこの子とうまくやっている。なのでこういう時はとても頼もしい。
いつもの二人を連れて笑顔で伝える。
「では私は先に行くので頑張って追い付いてきて下さい」
「副団長?!」
「やっぱり?!」
団長にどやされるのこっちなんですと訴えるのを無視して走らせた。まあ数刻遅れるだけで済むだろう。
もう少しきちんとヴォックスと話せばよかったかなと一瞬思ったけど、馬を走らせることに集中して誤魔化した。今、ヴォックスと顔を合わせたら以前のように触れたくなりそうだから。今度こそ、死地に向かっているのが感覚で分かった。
何も伝えてないのに、別れになるかもしれない恐れと戦いながら私はプレケスに向かった。
いよいよプレケスの英雄編へ突入です!殺陣に関わる部分は35話から一日で全てUP予定です。




