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32話 好きな人との時間を令嬢として楽しむこと

 会場に入ると当然のことながら視線を浴びる。第二皇子が来たのだから当然だろう。

 道中、騎士達によかったと安堵された。相当心配をかけてしまったようだったので、後でなにか差し入れでもしておくか。件のヴォックス直属の精鋭五人は納得したようにうんうん頷いた挙句、お綺麗ですよだのお似合いですよ言っていた。

 ともあれ、今日一番心配をかけた第三皇子殿下が、直属の侍女に何かを指示した後、会場に戻ってから真っ先にやってくる。


「シレ」

「もー本っ当よかった。父上も来てるから」

「分かった」

「ユラレ伯爵令嬢もありがとうございます。とても御綺麗ですよ」


 さすが兄上が選んだ方だと笑う。感謝の言葉と礼をすると、そんな畏まらなくてもと眉を下げた。


「さっきは僕もだいぶ荒れてましたし、おあいこって事で」


 私とヴォックスが城内警備で騎士をしていたことに相当心砕いてくれていた。私たちが感謝するところだと思うけど。


「シレ、また痩せたんじゃないか?」

「はは、大丈夫」


 痩せた事を否定しないし、大丈夫という人間に限って無理をしているのは自明の理だ。ヴォックスは呆れ心配した様子を見せる。


「ただでさえ今日の事を任せきりで頼りきりだったし、それ以外は遠征が多いから気にかけてやれなかった」

「大丈夫ですって。ほら早く父上の所へ」


 話を強引に逸らしてくるあたり、あまりよくない状態と見た。あのままだと数年後には倒れそうだ。あの有能な侍女に言伝でもしておこう。


「ユツィ」

「ああ」


 そこからはつつがなくこなすことが出来た。

 皇弟でもあるヴォックスの父親に会ったが、こちらは息災で終始にこやかだった。現皇帝は訪れていない。ここは妥当だろう。

 そして一番面倒だったのが第一皇太子殿下とその婚約者だった。どうやらこの二人、ヴォックスも第三皇子も敵対視しているようで、やたら突っかかって来る。嫌味やなにやらをスルーしてこなし、他の貴族との挨拶を終え休憩がてら庭に出て騎士達の様子を見に行った。


「団長も副団長もお戻り下さい。こちらは大丈夫なので」

「ただの確認だ。問題ない」

「団長ってば」

「私は逆にこちらの方が過ごしやすいです」

「副団長も……」


 ならせめてお二人でお過ごし下さい、と呆れて言われる。分隊長の一人がこれどうぞと酒瓶を一つ押し付けていく始末だった。周囲の騎士も人払いはお任せくださいと笑って去っていく。

 テーブルと二人掛け用の野外用ソファ、酒とグラスまで用意されたのだから仕方ない。二人で月夜に酒を嗜むことにした。美味しい酒と心地の良い庭では酒がよく進んだ。


「静かでいいな」

「そうだね」


 ふとヴォックスが視線を落とした。


「自信がなくなるんだ」

「?」

「待つと言ったのに、こういうことがあると浮かれてユツィに触れたくなる」

「……酔っているな?」


 かもなと笑った。


「存外嬉しいものだなと」

「ん?」


 ヴォックスが再び私の耳に触れてくる。贈られた枯れない薔薇だ。


「今度は首に飾るものも改めて贈ろう」


 今日は間に合わせだからと苦笑した。

 断るつもりだった。そう着ることもないだろうし、政治的な役割が終わればいつ離れてもおかしくないと思っていたから。

 けど、ヴォックスがあまりに満ち足りた顔をするものだから何も言えなくなった。


「……」

「……」


 そこからは静かに酒を飲んで、たまにぽつぽつ会話を挟むだけのなんてことない時間を過ごした。それだけなのに妙に心内があたたかく妙な多幸感が巡る。

 最終的に第三皇子殿下に呼ばれるまではそこにずっと留まった。再びお咎めをもらうことになったが、私達が二人並んで戻り互いを見て苦笑すると、第三皇子も仕方ないなと苦く笑う。


「まあ挨拶回りも済んでましたし、父上も満足してましたし」

「はは、すまないな」

「いいえ。僕は母上と全ての見送りを済ませたら戻ります。兄上達は一足先に戻って頂いて構いません」

「ありがとう、助かるよ」

「兄上には警備を任せてますから」


 警備も結局任せきりだったから、仕事らしい仕事はしていない気もする。よほど目の前の弟殿下の方が仕事をしている気もしたが敢えて何も言わなかった。

 二人庭から大広間に戻れば帰り始める貴族たちの姿が見える。いくらか挨拶をこなして別棟へ足を運んだ。外回廊で再び月を見上げながら囁く。


「今日ぐらいは……」

「ユツィ?」

「何でもない。行こう」


 好きな人との時間を令嬢として楽しむことをお許し下さい。

社交界というよりはお家デートみたいな感じになったかな? まあいいよね!赤薔薇のくだりができればなんでもいいのです(笑)。赤薔薇有効活用オイシイ(´ρ`)

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