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30話 社交界(前半ヴォックス視点)

「団長、嬉しそうですね」

「?」


 直属の分隊長の一人、マレがなんてことなしに言った。


「マレ、不躾に何を言っている。団長に失礼だろう」

「そうですよ。最近副団長といちゃいちゃしてるからってやぶへびです」


 次々と口にする。

 そんなにユツィとの関係が変わったのだろうか。


「団長、そんな真剣に受け止めなくて良いです」

「そうか?」

「ええ。端から見ても御二人は仲睦まじいのですから気にする必要はありません」

「仲睦まじい?」


 端から見ても良好な関係なのか。

 最近やっとユツィの本心が少し聞けたのに、周囲の方が良く知ってるように見える。


「進みが遅くてやきもきしますけどね~! 甘酸っぱいというか」

「マレ」

「へーい」


 書類にサインをしながら五人の話を耳に通す。学舎の頃から二人はいずれこうなると思っていただの、最初はあの別棟だったから心配していたが杞憂だっただの、それぞれ好きなように言っていた。学舎にいた頃は純粋なライバル同士だと自負していた。


「団長が副団長好きなの丸分かりでしたけど」

「マレ」

「ちぇー」


 男が多い騎士候補だらけの中で淑女の茶会のような話題で盛り上がっていたのだろうか。しかし周囲の評価が良いのは気分がいい。ユツィが自分の事を傍から見ても良く想っているように見えるのも良い。


「団長」

「どうした」

「次の祝い事の件ですが」


 父上の生誕に伴った社交界だった。祖父である現皇帝のことを鑑み、大きくはできないが周辺国や貴族が集まって城内で行う。


「警備の配置は従前通りで良いだろう。人が薄くなりそうな時間と場所には私が行こう」

「え、団長参加しないんですか?」

「?」


 騎士として参加している。しかしそういうことではなかったらしい。


「団長、貴方騎士ではありますが皇子なんですよ? 当日警備は我々でどうにかしますから、きちんと皇族としての正装で臨んで下さい」

「そうですよ! あ、おれ聞きたかったんすけど、副団長のドレスはどんな感じなんすか?」

「え?」

「ドレスですって」

「……」

「あれ、え、まさか団長」

「その顔……」


 何も用意していないことを悟られてしまった。顔に出ていたらしい。


「……今からで良いので急いで副団長にドレスを用意して下さい」

「しかし警備が」

「いいから」

「我々がやるって言ってるんですよ。さっさと副団長誘ってドレスプレゼントして下さい」

「わ、分かった」


 ただし一度は騎士団長として顔を出すとなんとか言ったが、五人は心底呆れた顔をしてこちらを見ていた。

 仕事をすることの何がいけないというのか。



* * *



「警備配置に支障はなさそうだね」

「警備が薄くなりそうなところはモンスに補填してもらった」

「ヴォックスの直属は相変わらず優秀だ」


 ヴォックスと会場に入る貴族や各国要人の様子を見つつ、警備の内容を再確認する。やたら騎士達の微妙な視線を受けているのが気になるけど、警備自体を嫌がっているわけではないらしい。ヴォックス直属の五人はかなり非難じみた目で自身の主人を見ていたがヴォックスは見て見ないふりをしていた。


「いた!」


 聞かない声に振り向くと顔色があまり良くない痩せた男性がこちらを指さしている。


「兄上! 何してるんですか!」


 皇弟の末の息子、ヴォックスの弟である第三皇子、シレ・パラディースス・プロディージューマ殿下が小走りでこちらにやってきた。焦っているような呆れているようなそんな表情をしている。


「シレ、どうした」

「どうしたじゃないでしょう! なんで?! あれだけ言ったのに!」

「警備の任務が」

「兄上は皇子なんだから、こっち側! 今! すぐ! 着替えてきて下さい!!」


 周囲の話を聞いている騎士がうんうん頷いていた。成程、あの非難じみた目は第二皇子として参加しないヴォックスに対する文句だったのか。


「団長、仰って下さればよかったのに」

「ユツィ?」

「早く行って下さい。警備は私が分隊長達と一緒に指揮を執りましょう」

「はああ?!」


 第三皇子が素っ頓狂な声を上げた。瞳孔開いて私を信じられないといった様子で見ている。


「ユラレ伯爵令嬢もですよ!」

「え? 私?」

「貴方、兄上の婚約者でしょ?! 兄上共々さっさと着替えてきて下さい!」

 

 急いで! と叫ぶ。

 周囲が再び頷いた。中にはぐっと拳を握っている者もいる。


「もおおおお! これだから騎士一筋でやってきた脳筋はー!」


 叫ぶ第三皇子をしり目にヴォックスと二人で会場を後にする羽目になった。しかもすぐに着替えられるよう会場近くの別室を用意してくれていて、そこに控えていた第三皇子専属の侍女が準備万端で待機している。


「第二皇子殿下はこちら、ユラレ伯爵令嬢はこちらに」

「ありがとうございます」


 互いに一部屋ずつ、すでにドレスが用意されていた。いつの間に。


「こちらのドレスは第二皇子殿下からです」

「え?」


 上等な布を使った豪奢なドレス。生まれてこの方社交界に令嬢として出た事もなかった。王国の滅亡やそこからのごたごたと日々の戦争でデビュタントだって参加できず、日々のそういったものも参加していない。初めての社交界に着るドレスがヴォックスから送られたものとは、純粋に心が揺れた。

御馴染み社交界編! ついに脳筋呼ばわり(笑)。脳筋なんて言葉使わないかなあと思いつつ、そこはゆるく記載します。ちなみにこの話はシレ編でも組み込まれてますぞ~。

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