27話 プレケス攻略会議
「プレケスからではないのか?」
「ああ、その前にさらに北を目指す」
次の遠征先は狩猟大会の森を越えた二つ先のはずだったが、さらに北に進むらしい。狩猟大会の森の先がステラモリス、ステラモリスの北がプレケス、プレケスのさらに北の国を治めるという。
「プレケスを狙う蛮族を掃討するのが目的なら北から攻めるのは悪くない」
頷くヴォックスが地図を示した。
「ステラモリス側つまり南側からは山間が深く場所を取りづらい。それは蛮族達も同じで、この深い山間があったからステラモリスは何にも侵略されることがなかった」
南から行き来するには大きく東から迂回の必要がでてくる。険しい山を越えることと時間のかかる迂回は手早く略奪したい蛮族は選ばない。その点、北側のプレケスからなら道のほとんどが整備されているので行き来しやすくなる。
「……北の隣国であるプレケスがとられたら、そこを拠点にステラモリスが攻められる」
「そうだ。陛下はステラモリスを欲している」
「ステラモリスを?」
「治癒の力だ」
「成程」
魔法使いの中でもより少ない者しか扱えない治癒魔法をステラモリスの王族は何の障害もなく扱えるという。精度の高い治癒魔法は恐らくステラモリスの者だけだろうと言われる程だ。簡単なものなら我々でも学べば使える。けれどステラモリスの治癒魔法は次元が違う。起こったことを否定し、なかったことに出来る治癒だ。
その魔法以外にも薬学の知識や医療の技術も欲しいところだろう。それは帝国に限らず他の国々も同じことだ。
「しかし、聖女がいる今、ステラモリスの治癒魔法を欲する必要が?」
第一皇子の婚約者が魔法を使え、そのおかげで聖女と呼ばれるに至っている。それで現皇帝は満足しないらしい。
「陛下は聖女を騎士団に多く投入し、回復を続けながら長く侵攻する形をとりたいらしい」
とことん武力侵攻メインだ。精度の高い治癒魔法が欲しいと。
しかし現公国で事象を否定できる治癒魔法が使えるのは国を治める公爵家だけ。
「あまり良い話ではないが、帝国の皇帝派と婚姻させるつもりだろう」
今の公主の妻と娘を帝国派と婚姻させ子供を多く作るつもりらしい。反吐が出る話だった。現皇帝は武力侵攻を掲げて人を人として扱わない気らしい。子供を増やして軍隊を作ろうなんて考えは狂気の沙汰だ。
「……ヴォックス、続きを」
「ああ……陛下の望まれる考えは、レースノワレで武力を確保し、ステラモリスで治癒を手にする。最後はイルミナルクスだ」
「東の新興国?」
「ああ、政治・経済で急速な発展を遂げた国で、万全に整った所で滅ぼす気なのだろう。父上は御祖父様の考えを見抜き、だいぶ前にイルミナルクスから宰相殿を帝国に招いた」
保護という名目と、イルミナルクスと皇弟が友好関係であると見せるためか。その宰相殿はイルミナルクスの発展に寄与した要とも言える人物らしいが、既に事故で亡くなっていると聞く。
「イルミナルクスが手中におさめられれば、次は南の海を越えた大陸だろうな」
「皇帝はそこまで考えていらっしゃる?」
「ああ」
だから父上は、とそこで言葉を続けなかった。そこから先は国家反逆罪に相当する内容だからだろう。
「ヴォックス」
「?」
「……いや、いい」
待ってくれと以前に囁いていたのは次代の皇帝に代わったらという意味だろうか。次代にかわって何ができる? 騎士組織の解体? 穏健派の皇弟にかわったら、併合された多くの国が騒ぎ出すだろう。独立を掲げる国も出てくる。そうなると騎士組織は解体できない。むしろ今よりもっと危険な地へ戦いに行くことになるだろう。それは一向に構わない。
けど、これから起きるだろう過程で私とヴォックスの関係に変化があるのだろうか。
レースノワレはもうないし、王族も潰えた今では復刻もかなわない。王女殿下は戻らないし、失われた事実はなくならないのに?
例え現皇帝が退いても私の気持ちに踏ん切りがつく保証はない。
「やることが分かれば話が早い。攻めに出る」
「ええ」
せめて現存している小さな国を守ろう。ステラモリス公国もイルミナルクス王国も守り抜いて、皇弟に代替わりしてもらい、誰も失うことのないように。
それがせめてものレースノワレの手向けになると信じて。
変態ストーカーで記述のあったプレケスの英雄前日譚みたいな所です。ユツィ無双が目の前ですね~。プレケス戦は勿論UPしますが、殺陣が長いので殺陣に関する部分は一日で一気にUPしようと考えてます~。




