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25話 寝起き寝惚けの告白

 ヴォックスが怪我を負った。

 遠征先で小競り合いがあり、それを収拾する為に間に入る。その時一瞬油断した私を庇って怪我を負ってしまった。

 王女殿下のことを考え、ヴォックスとの生活を考え、目の前に集中できず背後からの攻撃を許してしまう。情けない。

 話し合いの場で起きた小競り合いだった為ヴォックスも立ち会っていた。だから間に入ってきたのだろう。周囲を落ち着かせるには効果的だったが代償が大きい。大事には至らなかったのが救いだ。


「ヴォックスはもう少し自分の立場を考えた方がいい」

「ユツィ、怪我は?」

「ないよ」

「ならいい」


 この前私がやらかしたところと同じ左肩を斬られた。剣は帯刀しているとはいえ防具を外していたのは不運と言うべきか、それとも準備や想定不足だろうか。


「間に入るなら君直属の騎士でいいのに」

「結果的に場が収まったからいいじゃないか」

「そういう問題じゃない」


 過程も大事と嗜めると僅かに笑う。


「私の怠慢が招いた結果でもあるけど……浅くて良かった」

「ユツィが気にすることではない。俺が君が斬られるのを見たくなくてやったことだ」


 相変わらずの真面目ぶりだ。


「ヴォックス、折角だ。今少し寝たらいい」

「怪我は問題ないが」

「最近ろくに寝てないね? この部屋も暫く貸してくれるというし、話し合いは今のところ良い方向に進んでいる。帝都の文官が来るまで寝られるんだからいいと思うけど?」

「しかし」

「一緒に寝る?」

「それは駄目だ」


 かっと顔が赤くなった。照れているのだろうか。傷が開くとよく分からないことを言うが一先ず聞き流した。添い寝は駄目か。


「見張りで私はここにいるよ。邪魔なら外の扉前にいるけど?」

「……寝ることは揺るがないのか」

「勿論」


 ゆっくりとした溜め息をつかれ、観念したヴォックスは天井を眺める形で横になった。

 暫く他愛のない話を続け、程よいところで瞳が重くなるのを見る。もうそろそろか。


「寝れそうだな」

「……ああ」

「助けてくれてありがとう」

「……ああ」


 もう寝に入る頃に言うのは卑怯かなとは思ったが、言うタイミングを逸したので致し方なかったと心の中で言い訳する。

 瞳が完全に閉じられヴォックスは眠りについた。


* * *


 そろそろ帝都の文官が来る。小競り合いの後は話し合いに折り合いをつけたから同じようなことは起きなそうだ。

 連絡を受けヴォックスを起こそうと怪我をしていない右肩に触れた。


「ヴォックス、そろそろ起きて」

「……っ」

「ヴォックス?」


 うっすら目を開けるも寝起き特有のぼんやりした様子で天井を見つめる。覗き込むと視線をこちらに寄越した。


「……ユツィ?」

「ヴォックス、起きて」


 右肩に触れていた手を離そうとしたら素早く捕まれてしまう。引いても離してくれなかった。


「ヴォックス?」

「……ユツィ」


 寝ぼけているな。苦笑すると再び目を閉じた。


「こら」


 寝るなと言うと瞳を閉じたまま笑う。夢でも変わらないなと囁いてきたので寝ぼけているのが確定した。


「ヴォックス」

「ああ……ユツィ」

「……どうした?」


 掴んで離さない私の手を引き寄せ指先に唇を寄せる。急なことに身体が震えた。


「ヴォックス!」


 動揺を隠せず声が裏返った。ヴォックスは構わず、いいじゃないかと笑いながら掌に頬を寄せてくる。あたたかさにもう一度震えた。


「……愛してる」

「なっ」

「ずっと、前から……」


 寝ぼけているところになんてことを。

 こうなると今起きられると困る事態になった。


「ずっと……」

「ヴォックス」

「君が……許して、くれなくても」


 好きなんだ。

 と掠れた声で出される告白。

 知っていた。

 許しくれるまでと言って贈ってくれる花も言葉も彼の本心から来るもの。けど、そこには見返りを求めている素振りがなかった。ヴォックスは私に許されなくてもいいと思っている節がある。

 気の合う友達でライバルでいたかったから、彼が真実を告げないのをいいことに知らない振りを続けていた。


「……」

「ユツィ……」


 呼ぶ名にかかる色合いが全く違う。否応なしにヴォックスの気持ちが見えた。私が思うよりもずっと彼は私を想ってくれているのではと思える。


「ヴォックス……もう少し寝てて」

「……ああ」


 掴む手から力が抜けた。

 無駄のない動作で立って足早に扉の前までいき、そこで彼に背を向けたまま両手で顔を覆う。このままでは外に出られない。


「顔、赤いな……」


 見張りの騎士にバレないよう、急いで落ち着かせて出ていく。幸い元通りになったらしい私の様子を指摘する者はいなく、あと少し寝かせてやるよう伝えると快く頷かれた。

 話し合いの過程を軽くきいて、ヴォックスの眠る部屋の扉を開けると既に彼は目覚めていた。


「起きた?」

「ああ、待たせてすまない」


 覚えてなさそうな様子にほっとするも、どこか残念に思ってしまう。ずるいなと自分に苦笑してヴォックスと並んで仕事に戻った。

やや恒例の寝起き寝惚けの告白もといもうこれは惚気\(^o^)/やや真面目が入りつつも甘め仕様なので、やっと恋愛ジャンルぽい感じになりましたね!寝起き美味しいです(´ρ`)

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