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2話 騎士候補生時代

「ヴォックス、どうしてこうなる?」


 他人の所持品を意図的に壊すのはいかがなものかと思う。

 私が怒りを通り越して呆れているのをちらりと見て無愛想に応えた。


「気にするな」

「気にもなる。こんなのおかし」

「ユースティーツィア、これは俺の問題だ」


 ヴォックスは入学してから陰湿な嫌がらせに遭っていた。所持品を盗まれたり破壊されたりは日常茶飯事。当人は平然とした顔をしているものだから、嫌がらせは悪化する一方だったし、周囲がひそひそと彼を笑っているのは常だった。


「……ヴォックスは一人部屋?」

「ああ、そうだな」

「なにもされてない? 不法侵入とか」

「それはない」


 曰く、下の弟がトラップを魔法で施してくれたとのことだった。そういえばウニバーシタス帝国には三人の皇子がいて、一番下の皇子は魔法の才があるときく。非常に利発で宰相候補筆頭とも。

 しかしいくら寮の部屋が安全でもこの日常は頂けない。本人は全く動く気がなさそうだし、大人への相談もする気がなさそうだ。となると私のやりたいようにやっても問題はないかな?


「……私も寮生活にする」


 私は自宅から馬をかけて通っていたのをあっさり変えた。


「急にどうした」

「気が変わった」


 ヴォックスに嫌がらせをしている人間の特定の為だ。

 寮生活については、申し出ればすぐに受理された。家族も自立する為と言えばあっさり了承したし、即時寮生活へ移行できる柔軟性の良さはこの学舎の良い部分だろう。


「……やっぱり」


 ヴォックスへの嫌がらせの件はいとも簡単に特定できた。正直騎士としての練度の低さに失笑せざるを得ない。騎士といえど、場合によっては暗殺や諜報員、密偵といった影ながらこなす仕事も当然ある。私はここに来る前に学んではいたが、他国はそうでもないのだろうか。


「ふむ」


 帝国の介入があったと捉えられては困るから、情報提供と要望を密かに出して、そこから先は教官達に慎重に対応してもらった。ついでに私が嫌がらせの現場を直接おさえてぼこぼこにして二重に事を静めれば嫌がらせは簡単に終息に向かう。

 嫌がらせをしてくる輩は私やヴォックス程騎士として強くもないから一度ぼこぼこにこらしめれば反撃してくることはなかった。

 正直、私とヴォックスは強い。私と彼は常に首席と次席を争っていた。

 だから二人実技で組まされる事が多く、嫌がらせが終息したと実感できた日も実技の相手はヴォックスだった。


「よし、また私の勝ち」

「ああ、ユースティーツィアには中々敵わない」


 実技で私が負けたことはない。けれどヴォックスの実力は初めて会った時と比べて数段飛ばしであがっていた。あっという間に並ばれた気がする程に。


「ヴォックスはここに来る前から騎士としての訓練を?」

「……いやここが初めてだ」

「それでここまで強い?」


 これが才能というものだろうか。

 私は幼少期から剣に向かう習慣があった。しかも自分より強い者しか周囲にいなかったから成長速度も速かった。他人より優位な立場にいたからこそ一番をとれていたがヴォックスは違う。才能とはあるものなのかと思っていたら次の彼の言葉に驚いた。


「毎日、朝と寝る前に一人で訓練をしている」


 決して誰にも話すなと言われた上での告白だった。彼は一人でひたすら反復練習をしていると。時間外の行動は自由だが、やりすぎると教官から指導が入る。口外厳禁なところを考えるに、あまり人には教えたくないのだろう。

 自分の立場を悪くするかもしれないことを話してくれて珍しく優越感を感じた。信頼できる友人として見てくれているのだと思うと嬉しくて、私はそのまま一緒にやりたいと言葉にする。


「え?」

「私もこれから君と一緒に自主訓練をしたい」


 当然驚かれるけど、気にせず主張する。


「しかし」

「相手がいる方がやりやすい。何かあった時に言い訳や辻褄合わせもしやすいかな?」

「……はあ」


 悪いことを率先して提案する私にヴォックスは言葉に悩んでいた。


「私が品行方正な候補生だとでも思った?」

「いや………」


 伏し目がちに頬を緩ませるヴォックスを初めて見た。いつも緊張した面持ちで前を見据える姿ばかりの中で笑う姿は新鮮で、貴重で、目を奪われる。


「ユースティーツィア、君は面白いな」


 よろしく頼むと右手が出てくる。どこまでも真面目な男だと手を握り返す。剣だこだらけのごつごつした掌になっていたのを知り、想像以上に努力していることを悟った。

 そしてここから一年も経てば同年代で我々に敵うものは完全にいなくなる。ヴォックスはその実力からひそかに認められ慕う者もいたが、立場が立場なのか表立った姿は孤独のままだった。

 そしてこの頃になれば互いに愛称で呼ぶようになる。


 ユツィ

 ヴィー


 良きライバルで良き友人とはよく言ったものだ。彼の特別だと私はこの頃ひそかに浮わついていた。

 いつも隣を陣取って、それが当たり前だと言わんばかりに居座って、自覚もないままヴォックスの側を独占する。子供らしいと言えば子供らしいのかもしれないけど。

まあ思えばこの時点で既に好きですよね(笑顔)。本日は夜にも3話目を夜8時に更新予定です。

騎士×騎士、ライバル同士ヒャッハー!

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