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16話 帝都視察

 婚約してからはグレース騎士学院での生活とあまり変わらない生活だった。少し距離が近いだけで寝室は別、共用リビングで食事をし、平常なら騎士の訓練が主で書類仕事ができたぐらいだ。

 唯一、ヴォックスとの関係が違うだけ。


「ユツィ」


 毎回違う花を持ってくる。十輪になった花を見て手持ちの花瓶が限界を迎えた。


「ヴォックス、花は一先ずやめてほしい」

「花は嫌いか?」

「好きだけど、これ以上増えると花瓶に入らない」

「なら花瓶を調達すればいいな」


 むやみやたらに買わないよう伝えても買うのは譲らないといった雰囲気だ。

 案の定翌日は花瓶と花をセットでもらい、その後は部屋の花の様子を見ながら定期的に花瓶を寄越すようになった。

 何もない簡素な部屋だったが、花があると華やかになる。不思議とこの生活に馴染んでしまいそうだ。


「というわけです」

「副団長の旦那、面白い人ですね」

「旦那ではありません」


 稽古中、元王国の騎士が困ったように笑う。


「長年連れ添った夫婦みたいなのに」

「なんですかそれは」

「あ、でも付き合いたての子供みたいな時もありますよね~」

「さっきと逆では……」


 そんな風に見えている?

 表現はさておき好き合っているように見えるのだろうか?


「堅物でごっつい団長ですけど、滅茶苦茶副団長のこと好きですよね」

「……そう?」

「ええ」


 すっかり習慣化したが毎日花を贈られる。よくあれだけの花を用意できるものだと感心した。


「そういえば、副団長は団長と一緒に視察に行かないんですか?」

「視察?」

「最近帝都の警備騎士を新しくしたじゃないですか。あと二ヶ月ぐらいは体制強化で団長も一緒に帝都見回りしてるって」

「……それは」

「初めて聞きました?」

「ええ」


 帝都の警備騎士を再編成といよりもほぼ新規で作り替えた話は聞いた。副団長になったばかりの時だったかな。


「まあこっちの面倒見なきゃいけないですしね」


 城内の騎士達の事を考えたら、私がここで指導するのが効率的でいいだろう。

 

「次の遠征までに体制整えたいみたいですし」

「ふむ」


 そういえば帝国に居を構えるようになったけど、帝国の事をあまり知らなかったな。


「あ、帰ってきましたよ」

「ええ」


 稽古を止めて各自休憩をとらせる。その間にヴォックスの元へ戻った。


「ユツィ?」


 ヴォックス付の精鋭騎士に指示を出して下がらせればすぐに二人だけになる。人がいても愛称で呼ぶのはいかがなものかと思うが指摘しても直してくれない。


「帝都に視察に出てると聞いた」

「ああ、遠征までに体制を整える。そこからは視察はなくなる予定だ」


 訓練を任せきりですまない、と謝ってくる。


「その視察、私も行きたい」

「え?」

「思えば帝都の事は何も知らないから」


 私の言葉に驚きつつも考える素振りを見せた。驚く事を言ったつもりはないけれど、ヴォックスには歓迎されることだったらしい。期待に満ちた目で、分かったと頷いた。


「こちらで指導役を改める。明日から行けるか?」

「分かった」



* * *



「賑やかな街だな」

「物流の拠点にもなっているからな」


 帝都は活気がある良い街だった。帝国民が多く、併合された他国の民は数えるほどで我が王国民も少ない。


「武器専門……」

「気になるなら入るか?」

「視察中」

「どういう人間が出入りしているか把握しておくのも視察の一つだ」


 帝都の地図は頭の中に入っていたけど現場はやはり違う。地図にない細い道がどこに繋がっているか、裏道の先の居住区から怪しげな店まで全て回った。


「武器……」

「ユツィ?」


 ヴォックス付の精鋭騎士で分隊長を務めている二人が城に残り指導役に回された。今私達の背後に精鋭の内の三人が控えているが距離もある。


「たまには花以外も……」

「……」

「待った今のなし」


 言葉にして気づいた。ヴォックスから貰うを当たり前に考えすぎだ。これじゃあおねだりしてるみたいじゃない。恥ずかしさに慌てても、ヴォックスは気にせず成程と頷いていた。嬉しそうに瞳に奥を輝かせている。


「では次は花に違うものを添えよう」


 何故か花は固定だった。さっきの私の台詞を思い出してほしい。花以外と言ったはずだ。


「よくあれだけの花を用意できるね」


 どこの花屋を使っているか問う。花一輪、毎日買っていればかなりの金額になるはずだ。

 というよりも誰の入れ知恵で女性なら花を贈れみたいな典型的行動になったのか疑問でもあった。


「弟が城内に庭を持っていて」

「成程」


 それなら合点が行く。皇家所持の花を多くを置いた庭ならさぞや種類も多く多量にあることだろう。


「弟の恋人が色々教えてくれるんだ」

「……恋人? 第三皇子殿下の?」

「ああ」


 帝国三人の皇子の中、第一皇子はすでに侯爵家の令嬢と婚約し近い内に結婚すると聞いた。ヴォックスは私と直近婚約、最後の末の皇子殿下は相手がいないと聞いていたが想いを通じあってる女性がいる? 植物に詳しい令嬢が出入りしているという話は聞いたことがない。


「本人は恋人でないとよく否定する」

「それは弟殿下の片想いでは?」

「けど好きだと聞いたが」

「?」


 会話がおかしい。恋人という関係は否定するけどご令嬢は殿下が好きだと。

 いまいち想像がつかない。城に出入り出来る令嬢なら皇族の相手として不足はないはず。


「弟と彼女のおかげでユツィに花を贈れるから助かっているな」

「そう」


 ヴォックスが嬉しそうなので私も良い気分になる反面、気持ちの端がもやっとする。なんだろう、不思議な感覚に首を傾げると、ヴォックスが相変わらず気にして声をかけてくる。


「ユツィ?」

「大丈夫、心配ないよ」

「本当に?」

「なんなら後で剣でも合わせよう。私が絶好調だと分かる」

「成程」


 こういう所は王国の人間みたいだなと思ってしまう。けどヴォックスは帝国の人間、帝国の皇子だとふとした時に現実が目の前にやってくる。敵国の人間だと思って固くなるのは私だけだろうか。騎士達の中でうまくやっている王国民が羨ましかった。私はまだ失った殿下が忘れられない。


「……割りきれないのは苦しいね」


 私の囁きはヴォックスに聞こえていなかった。

もだもだし始めました(笑)。好きだけど、失った大切な人がよぎるしね~。でもこうした一瞬一瞬の会話が癒しになってたりもするからタチが悪い。いやあもう好き合ってるのに困ったものですね!オイシイ(´ρ`)

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