13話 優勝者ヴォックス、褒賞を賜る
ヴォックスの試合は圧巻だった。無駄のない動きに、大きな体の割に想像以上の速さで繰り出される連撃、奇をてらっても速さで対応されるし、真正面から臨んだとしても純粋な力比べで敵う者などいない。
私も順調に勝ち進み、結局周囲の予想通り私とヴォックスの決勝戦となった。
「予想通りですね」
「……ああ」
「ヴィー」
「!」
愛称で呼ぶのは久しぶりだった。ヴォックスの眦が上がる。
「本当に反乱は考えていない。けどこの試合、王国の威信をかけて勝たせてもらう」
「……こちらだって負けられない」
「そうこないと」
試合開始の鐘がなった。
「あの時のやり直しだね」
殿下の訃報があって中断された過去が既に懐かしい。
私とヴォックスは変わらず同じ速さと強さで剣を交えた。
お互い右上手から斜めに振り下ろし剣を何度もぶつけ合う。一際力を込めて真上から落とすように振るえばヴォックスの剣は大地に触れた。
体勢が崩れたかと思いきや、地面すれすれを足首を狙うように剣が横に這う。飛んで回避するついでに再び真上から剣をおとした。私の剣が到達する前にヴォックスが半歩私の方へ踏み込んだ後、剣の柄と共に掌を私の腹に押し出してくる。
「っは」
危険だと腹に力をいれても衝撃に息が詰まった。内臓も骨も影響なさそうだ。まったくこの真面目な男は親善試合でも本気で臨んでくる。生きるか死ぬかがかかっているわけではないのに、あの時と同じだ。
「……生きてる」
目が合った。
先程の打撃で開いた距離を即座に縮め、再び剣を正面から交える。ここにきて何故か周囲の歓声がよく聞こえた。
鍔迫り合いから力任せに押して来るのを後ろに下がり距離をとると、追って走り飛んで右側から斜めに振り下ろしてくる。それを後ろに引いて避けるも、ヴォックスは着地後続けざまに左下から斜め上へ一閃、身体を捻り避けると再び斜めに剣を下ろしてくる。対角の方向から剣を押し上げるように振るい、ヴォックスの剣を受けた。
ぶつかった瞬間、反時計回りに捻って剣を手放させようとしたヴォックスの剣を弾き、時計回りに身体を回転させ横一線に剣を振るおうとした時、なぜか私の剣は私の手から離れていた。
「え?」
時間差でがしゃんと音を立てて剣が地面に落ちるのを見る。身体の後にくる剣だけを狙って掬いあげたのか。やはり大振りの動きはよくない。自分の身体が先に捻り終わる時、剣はまだ後方にあり手元が一瞬疎かになる。そこを的確に突ける人間はそういないが、相手が悪かった。彼であれば、それができる。
「!」
以前のようにヴォックスの剣を奪い体術へ持っていくこともできなかった。彼の方が一手早く、既にその剣は私の首元に添えられていたからだ。
「……成程」
「君の唯一の弱点だ」
「今まで黙ってた?」
「言ったら君に一切の隙がなくなる」
「はは、それはひどい!」
称賛なのかどうなのか。何故か負けたのに晴れやかな気持ちだった。両手をあげて敗けを認める。
「君の勝ちだよ」
「……」
周囲の歓声が一際大きくなった。
娯楽という点では優秀な内容だったと思う。
「どの国も実力申し分ない者達ばかりだった」
安全を考えてか騎士は戦いの場で待機、主催者である穏健派の次期皇帝は主賓席から表彰した。
「ウニバーシタス帝国騎士団長ヴォックス」
「はい」
優勝者が呼ばれ表彰される。戦争の最中という御時世もあり、優勝の証はないらしい。
その旨をしのびなく思ったのか望むものを与えようと言う。
「出来うる事であれば叶えようと思う。申してみよ」
「では」
丁寧に断りをいれてヴォックスが告げる。
「ユースティーツィア・マーレ・ユラレ伯爵令嬢との婚姻を認めて頂きたいと存じます」
「ん?」
今聞き捨てならない言葉が聞こえたが?
微笑んだままヴォックスを見る。彼は真面目に主催者に訴えていた。
「ユラレ伯爵令嬢との婚姻?」
ちらりと視線を寄越された。動揺を見せていない次期皇帝に対し、周囲はヴォックスの発言からざわりと騒がしくなっている。私も聞きたい。どういうことになっている?
「はい。最初は婚約期間が必要でしょうから婚約から認めて頂ければと存じます」
「え、な……」
この男なにを言っている。
「ユースティーツィア・マーレ・ユラレ伯爵令嬢との婚約、後の婚姻までお認め下さい」
二度も言ったぞ、この男。
「な、に……な、」
怒りで震えた。
「分かった、認めよう」
「!」
その言葉に次期皇帝を見る。視線の一つもこちらに寄越さない。ヴォックスは頭を下げて応えた。
「ありがとうございます」
親子揃って私の話をきこうともしないとは、どういうことだ。
「ふ、ふ……」
沸き上がる歓声の中、私の叫びが搔き消される。
「ふざけるな!」
精神抉った後のほんの少し軽めの話。背景に敗戦と殿下喪失があるのでいまひとつコメディに振り切れてない感じはありますかね…それでもやっとこあらすじの大まかな部分はクリア。
これからいちゃつきを徐々に本当に徐々に遅々として出していく形になっていきます。




