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10話 ヴォックス対ユツィ 後編

 ヴォックスはこれを先の私と同じように両腕で受けた。そのままヴォックスの腕を払うように下げさせ、身体のバランスを崩させる。彼の脇が甘くなったところで、自身の身体全部を完全に正面へ向け、同時に右足をあげて腹へ蹴りをいれようとしたが、ヴォックスは崩れた身体を少し引きぎりぎりで避けた。


「!」


 体勢を戻しながらヴォックスが腕を伸ばしてくる。掴む気だろうか。振り払いさらに身体を捻る。ヴォックスも体勢を整える為に身体を捻りながら一瞬、背中を合わせるような形になった。

 次に互いに振りかぶられたのは左腕で、九十度の形を作った腕が上半身振りむく為の半回転する勢いで力強く交わる。


「はは、気が合うね」


 ここまで攻撃の型が同じとは驚きだ。前腕部がぶつかり合うのは力のバランスが悪かったり当たりどころがよくないと簡単に骨が折れる。びりびり響く割に身体が無事なのは、ほぼ同等の実力であるヴォックスと戦ってる故だろう。


「……面白いか?」


 ヴォックスが一際辛そうな声音を滲ませる。その顔を視界に入れ迂闊にも眉間に皺を寄せてしまった。彼の表情は声音を現しているように辛さそのものしかない。


「…………もんか」


 いけない、溢れる。

 隠しているのに。


「ユツィ?」

「……面白いもんか。こんな……」


 彼が相手で良かったなんて強がりだ。本当は戦いたくなんてない。この人に斬られるのも、この人を斬るのも嫌だ。

 交わったままの腕にさらに力が加わった。


「こんなこと……したくない」


 殿下にすらはっきり言えなかった。

 ヴォックスへの気持ち。ただ好きなだけ。それだけなのに。


「けど私にもヴィーにも守るものがある」


 好きだと彼への感情を叫ぶ私と、騎士としての矜持を通す私がせめぎ合う。

 こんな時にはっきり感情が出てくる必要なんてないし、出てこないで欲しかった。


「辛いか?」

「え?」

「辛いなら……笑うものではない」


 笑わないとやっていけない。

 好きなだけなのに、どうして命のやり取りをしているのだろう。


「分かってる」

「ユツィ」


 名前を呼ばれて揺らぎそうになる。感情に流されてはいけない。

 さらに腕に力を込めた。腕を絡めて体勢を崩させる。身体をヴォックスの正面へ向けた。ヴォックスも同じように身体を向けてくるも体勢を崩された分の時間差がある。私は勢いをつけて右腕を繰り出し、ヴォックスは両腕を横に並べ私の拳を受けた。


「分かってる、とても」


 ヴォックスの両腕に力を乗せて右足を蟀谷目掛けて放つ。受けずに後退して蹴りから逃れた。

 互いに右に走り出す。体術戦のおかげで立ち位置が少し変化し、互いの剣がとりやすくなったからだ。体術は剣を使うよりもヴォックスと近く、どうしても感情が揺れ動いてしまうから離れたかったので丁度いい。

 お互い、刺さった剣はなんなく抜けて手に戻る。再び迷いなくヴォックスの元へ走った。


「……終わらないな」


 私と彼では平行線でしかない。体力の持続を考えるとまだまだ続きそうだ。でもまだ全然叩けると思えた。ずっと全力で駆け抜けているのに、三日三晩と言わずそれ以上戦えそうな気さえするぐらい、せめぎ合い大きくなる感情を持て余している。


「ユツィ」


 ヴォックスが私の名前を呼ぶのを無視して、右から横一線に剣を振りぬいた。

 高い位置で振りぬいたせいでヴォックス程の身長でも屈むだけで避けられてしまう。ヴォックスは腰を低くして踏ん張りを利かせ右下手から斜め上へ降りぬいてきた。身体を逸らせてこちらも避ける。

 お互い高い位置から振り下ろして再び鍔迫り合いとなった。

 火花で散らしているように目の前が明滅する。


「くっ」


 互いに力を入れる事で跳ね返り距離が生まれる。再び真上から剣を振り下ろす私に対して、横から剣を振り左に受け流してきた。

 受け流された高さから腕を軋ませ右へ一線する。あらかじめ縦に剣を構えていたヴォックスが受け止め、しっかり私の軌道を止めた後、右手側にいなした。

 まだだ。さらにその右側から再び横一線に振りぬく。受け止めたヴォックスの足が一歩引いた。

 もう一度剣を離そうとしたのか、上へ剣を誘導されるも今度は意地でも離さない。それを悟ったヴォックスは、剣の方向を縦に戻し何度目かになる正面からの激突になった。

 二度、三度と打ち合う。


「団長!」


 鍔迫り合いをもう一度という所だった。

 殿下が去っていった方向から一人の騎士が戻ってきた。


「!」


 ウニバーシタス帝国の騎士だった。


「終わったのか」


 ヴォックスが落ち着いた様子で剣を交えたまま、その騎士に一瞬視線を寄越して言葉をかける。

 嫌な感覚が足の先から競り上がってきた。伝達に来た騎士がしっかり頷く。


「はい」


 その先は聞きたくなかった。


「レースノワレ王国第一王女殿下の死亡を確認しました」


 力が抜ける。視界が色褪せる。私にとっての終わりが目の前に訪れた。

心を抉るタイム山場越えでした~。次回は傷心のユツィです。13話になって少し軽くなるかな?


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