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バトルなんてごめんこうむりあそばせですわ〜!  作者: みゅにえ〜る
小康編
12/17

一件落着ですわ〜!

騎士は騎士の位を受け取ると同時に、その身に聖刻を刻む。

聖刻には様々な機能が備わっているがその主たる目的は、突発的な緊急時においても騎士を機能させる事だった。。


「…!」


地下室にて伏していたルビズは、全身に電撃が走る様な感覚に襲われる。


(あの貴族令嬢…やってくれたんだな…)


ルビズの身体が、ルビズの意思と全く関係無しに立ち上がる。

傷はみるみるうちに癒えていき、それと比例する様にルビズの意識はだんだんと薄れて行った。


騎士に刻まれた聖刻は、貴族の発する特定の、それも確固たる意志の篭った言葉に反応して覚醒する。

聖刻が作動すると、騎士の持つ自我や意識は一時的に消え失せ、その者を完全なる国家の意思の執行者へと変える。


(懐かしいな…この感じ…何年振りだろうか…)


ルビズの意識が、甘美な闇へと溶けて行く。

やがて聖刻が完全に意識を乗っ取り、その証として、ルビズの左目には眩い白色光が灯った。

光は強く、黒目と白目の区別も付けられなくなる程であった


「これよりクラキ・ストルグフスキの捕縛を開始する。パルスレベルワン区域に存在せし各位は、速やかに任務を遂行せよ。」


ルビズを中心にして、不可視の波動が放たれる。

それは周囲に居る騎士に、自身と同じ命令を付与する局所的な通信信号であった。



〜〜〜



アシュリーとクラキの間には、暫しの静寂が訪れていた。


「は…ははは。何だ、何も起きないじゃ無いか。やはり貴様は貴族などでは…」


次の瞬間、屋敷の一階の窓ガラスがほぼ同時に割れる。

外から、騎士達が一斉に突入してきたのだ。


「な!?」


左目に光を灯した騎士達によって、すぐさまクラキは包囲された。

ただ、ここにやってきた騎士達は全員私服で、武装している者は居なかった。

皆潜入中であったか、単にこの領地で暮らしているだけの非番の騎士だった。


「クソッ!クソッ!こんな所で終わってたまるか!」


クラキは四方八方に発砲する。

が、私服の騎士達は、首を軽く傾げたり身を軽くひねるといった必要最低限の動きで、弾を全て回避していた。

もしも銃が引き金を引くだけで人を殺せるだけのただの道具であれば、銃の名手など存在しない。

騎士達、否、騎士達を操作する聖刻にとって、戦闘員ですら無いクラキの抵抗など無いに等しかった。


「クラキ・ストルグフスキ。」


地下通路を隠していたタンスが通路側から蹴られ、吹き飛ぶ。

仲から現れたのは、左の瞳に青白い光を灯し、人形の様な無表情を浮かべたルビズだった。


「アシュリー・ヘルヴェチカ公爵の申請により、貴候を一時捕縛する。司法局の到着まで、暫し待機して貰う。」


それを見たクラキは、騎士達をかき分けるよたよたとルビズの元までやって来る。


「おお!ルビズ!戻ったか!この不届きものどもを即刻叩き切って…」


「繰り返す。司法局の到着まで、暫し待機して貰う。」


「元、騎士のくせに、何だその言いぐさは!あ、見ろ!あの小娘がお前の妹を攫おうとしているぞ!あいつも殺せ!」


「繰り返す。司法局の到着まで、暫し」


「ええい!我が命令が聞けんのか!」


クラキの拳が、ルビズの右頬に直撃する。

その程度ではルビズはびくともしなかったが、瞳の光は黄色に変わった。


「騎士団への暴力行為を検出。意思レベル3。対象へ国家権力反逆罪の容疑を付加。総員、対象を拘束せよ。」


最初に命令を受けた聖刻騎士はコマンダーと呼ばれ、その任務の指揮権を持つ。

今回はルビズがそうだった。


「おいルビズ!この私の言う事が判らないのか!ルビズ!」


私服の騎士達に取り押さえられながら、なおもクラキはわめき散らしている。

対するルビズは無表情を崩さぬまま、ただ事の成り行きを見守っていた。


「ルビズ!ルビズううう!」


やがて、屋敷の前に数台の馬車がやって来る。

騒動を聞きつけ内地よりやってきた司法局である。


「クソおぉぉぉぉ…よくも我が計画をめちゃくちゃにしおってええええ!アシュリー・ヘルヴェチカあああああ!貴様の顔は覚えたからな…私のバッグにはなぁ…かの尊大なるレアディア帝国が付いているんだ!貴様など一瞬で破滅させてくれるわああああ!」


クラキの言葉を聞いた瞬間、騎士の目に灯る光が赤に変わる。

敵国との政治的な繋がりを持つ事は、この国では殺人よりも重い罪だった。


「あら?自白しましたわね。」


アシュリーは屋敷を物色しながら軽く笑う。

司法局の役員達が、既に拘束されているクラキの元へとやって来る。


「ありましたわ!」


“ピィ?”


アシュリーが見つけたのは、無地紺色の傘だった。

雨傘だが、遮光性は十分だ。


「貴女が彼を告発した貴族ですか?申し訳ございませんが、事情徴収に御協力を…」


役員の一人がアシュリーに声を掛ける。

アシュリーは返事の代わりに、一機の紙飛行機を役人に向けて派遣した。


「申し訳ございませんが、この後も予定が詰まっておりますの。詳しい事は来週末にでも聞いてくださいまし。」


役人は紙を広げる。

そこには事の経緯や地下室について、それからアシュリーなりの事後処理の希望が、事細かに記されていた。

アシュリーに関してはあくまでも任意の事情徴収なので、ここまでされればもう、引き止められる理由が無い。


「…分かりました。クラキ・ストルグフスキの告発、王国を代表して此処に感謝を評します。」


深々と頭を下げる役人。

その横を、アシュリーは静かに通り過ぎる。


「“王国”ねぇ…」


この国は不条理だ。

王でも市民でも無く、貴族が全ての権限を握っている。

領民を生かすも殺すも貴族次第、腐敗した貴族を裁くのもまた貴族で無ければいけない。

王家はただ傍観するのみ、騎士団は貴族を守り、貴族の意思を体現するだけの機関でしか無くなった。


「ま、わたくしとしては今の体制で満足していますわ。」


“ピィ?”


「貴女も運が良いですわね。仮に人の身のまま居たとしても、騎士になるか一生を庶民として終えるかしか無かったのですから。」


“…ピィ?”


「うふふ。さ、帰りますわよ。」


後日、新領主には反乱軍のリーダー、ロカが任命された。

反乱軍のアジトには大量の酒と食料が届けられたが、アシュリーは現れなかった。

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