『消え行く少女の声』
『子の月、二十四日。
もし助けて貰ったら、お姉ちゃんに私のここでの出来事を話したいから、このペンダントに日記を付けてみる。
私は今、地下室の檻の中に居るよ。
ママに頼まれておつかいに出ていたら、突然後ろから変な布をかがされた所からは何も思い出せない。
きっと私は誘拐されちゃったんだと思う、でも安心して、私、全然怖くないよ。
だってお姉ちゃんは正義の騎士だから、きっと助けてくれるよね。待ってるからね。』
『牛の月、三日。
今日変な注射を打たれてから、何だかずっと頭がぼうっとする。
お陰で夜眠れるようになったけど、何だか怖いよ。
助けて、お姉ちゃん…』
『寅の月、二十九日。
最近、身体中がパキパキ痛む。きっと、ずっと狭い檻の中でじっとしてたからだよね。
それに最近は暗闇に目が慣れてきて、前よりも部屋の様子が良く見える様になった。
頭は相変わらずもやもやする。はぁ…日の光が恋しいなぁ。』
『卯の月、十五日。
私に新しいルームメイトができた。種族は確か、鵺。昔お姉ちゃんが話してくれた。だからぬーちゃん!
ぬーちゃんは別の檻に居るんだけど、いっつも騒いでて、檻をごんごんして暴れてる。
ぬーちゃんもきっと此処から出たいんだね。もしお姉ちゃんが来たら一緒に出してもらおう!』
『た…辰の月、七日。
う…足が…痛い…!ビリビリする…!
すっごくきつい輪ゴムでぎゅうって絞められてる感じ…!
帰ったら、イルビム先生に診てもらわないと…!
お姉ちゃん、早く来て!』
『いやあああああ!
足が!足がああああああ!!!』
『午の月…えっと、何日だっけ…
ぬーちゃんの他にも、魔物がいっぱいやって来た…
私の足…私の…あああ足…鳥みたいに…最近は腕にぽつぽつができた…
私…どうなっちゃうのかな…』
『翼…腕…私の腕は…?
これ何…どうして翼が…
嫌!こんなの要らない!
返してよ!私の手、返して!』
『昔、お姉ちゃんと一緒にエルステリアの丘までピクニックに行ったよね。凄く綺麗な場所で、その日は空も澄んでて、りんごの木の下で一緒にお弁当を食べたよね。
その時に私、見たんだ。体が女の子、手足が鳥さんの魔物。ハーピィって言うんでしょ?私、その、今それみたいになってる。
ピクニックの時、何食べたっけ…大切な思い出だったのに…お姉ちゃん、笑ってたっけ、泣いてたっけ…私…私は…あ…ああ…』
『パパ…パパは…えっと…思い出せない…ママの顔も…どんな声だったかも…
思い出が…記憶が…私が、どんどん剥がれ落ちてく…
嫌だ…お姉ちゃんの事、忘れたくない…
お願い、忘れちゃう前に、もう一度会いたいよ…』
『私…私の名前…何でこれに話しかけてるんだっけ…
ああ…そうだ…お姉ちゃん…
私は…えっと…シルキー…好きな食べ物は…アップルパイ…好きな物は…虹と…わんちゃん…それから…お姉ちゃん…』
『消える…私…消えちゃう…嫌だ…消えたくない…死にたくない…
頭の中が…思い出が…火事みたいに…どんどん…
お姉ちゃん…お姉ちゃん…お姉ちゃん…』
『頭が…えっと…真っ白…
最近は…言葉も…どんどん忘れちゃってる…
私…天国…行けるかな…
お姉ちゃん…』
『嫌だああああ!!!死にたくないいいい!!!
私消えちゃうううう!!!出して!ここから出してよおおおおお!!!
お姉ちゃああああん!!!助けてえええええ!!!』
『お姉ちゃん…きっと…私…もう…そこに居ないから…
天国まで…連れてってよ…
お姉ちゃん…私の大好きな…お姉ちゃん…今まで…ありがとう…ずっと…大好きだよ…』
『お姉ちゃん………お姉ちゃん………お姉………ちゃん………』
以下、ハーピィ特有の甲高い鳴き声を断続的に録音した物が続く。