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不完全初恋

作者: 木村直輝

 私の初恋ですか?

 うーん……、いちおう、幼稚園の時。

 えっ、聞くんですか?

 いや、だめじゃないですけど。なんて言うか、ちょっと恥ずかしいと言うか。変わってるんで、共感できないと思いますよ?

 うーん。それじゃあまあ、話しますけど――。


 幼稚園。私はバスとかじゃなくて、お母さんに歩きで送り迎えしてもらってたんですよ。

 それで、ある日の帰り道。よく遊んでる公園で、出会ったんです。その、なんて言うか、男の子と。ふふっ……。

 いや、なんでもないです。ニヤニヤしてないです。

 それで、その子。最初、私にぶつかって来たんですけど、なんにも言わなくて。そう、謝りもしなくて。胸に思いっきり頭から突っ込んで来たのに。

 最悪でしたよ、第一印象は。うるさいし。なんかずっと歌ってて。その声が無理だったし、見た目も何もかも全部きもちわるく思えて、生理的に受け入れられなくて。

 もう、踏みつけてやろうみたいな。ふふっ。

 でも、お母さんにその子のこと色々と教えて貰って。それで、すごい頑張ってる子なんだなって知って、私わるいことしちゃったなって思って。

 いや、踏みつけてはないですよ? 踏みつけてはないですけど、気持ち悪いとか言っちゃって。

 それで次の日、幼稚園の帰りに謝りに行ったんです。ごめんねって。

 でも彼、まったく気にもとめてないって感じで。そんな彼が、私は気になっちゃって。

 その日はその後、ずーっと彼と過ごしたんです。

 すごい暑い時期だったんですけど、汗だくになりながら、それでもずーっと夕方まで帰らないって言い張って、一緒にいたんです。

 そんなに一緒にいたのに、会話とかは、なかったですね。喋れなくって……。

 でも彼、可愛かったんですよ。目がまんまるでクリクリしてて、小さくて。あしが細くて。ああ、でも色黒でした。ふふっ。

 で、とにかく歌ってたんですよね。大きな声で、一生懸命。それがなんだか愛おしくて。

 完全にあれは、恋でしたね……。誰になんと言われようと、あれは恋でした。

 それで、私もう彼と離れたくなくなっちゃって。彼と一緒じゃなきゃ帰らない! って言い張って。お母さん、困らせて……。

 それで、最終的にその日、彼はうちにくることになったんですよ。ほんとに。ふふ。

 近くのコンビニ? みたいな、でも、もうちょっと色々売ってるお店で、必要な物とか揃えて。うちに来てもらったんですよ。

 それで、その日はもうずーっと彼と一緒だったんですけど。

 朝起きたら。朝起きたら、彼。もう動かなくなってて。死んでたんです。

 アブラゼミだったんです、彼。

 いや、なんかおかしいなって思ってました? ふふ……。

 まあ、でも。恋心と、罪悪感と……。複雑な、思い出です……。あれは。

 なんですかぁ、もう。あれは恋でしたよ。本当に。当時の私にとって、恋でした。

 その後ずっと、かなり長いこと恋とかできなかったですもん。私にとっては、あのアブラゼミへの思いが恋だったから。罪悪感もあったし……。

 あー、でも。たぶん初日に会ったアブラゼミと、次の日に謝りに行って捕まえたアブラゼミは、別のアブラゼミだったと思いますけどね。

 というか、下手したら二日目も途中で入れ替わってましたよね? 別のアブラゼミと。

 でも、それでも、私の初恋はアブラゼミです。

 はい、終わり。

 ……えっ? ちゃんとした初恋はいつかって?

 ちゃんとしたって、今のもちゃんとした初恋ですよー! もぉ……。

 まあ、わかってます。わかってますよ。人間相手の、って意味ですよね?

 でも、それも、彼がきっかけだったかなぁ。

 いや、この話もう何回もしたことあるんですけど。中学の時に、好きな人教えろってすごい詰め寄られて、この話をしたことがあったんですよ。まだ、それが唯一の恋だった時に。

 そう。中学まで、アブラゼミ以外に恋したことなかったんです、私。ふふっ。

 それで、男子も女子も何人か聞いてたんですけど。案の定、みんなにおかしいって笑われて……。

 私もまあ、自分でもおかしいとは思うし。だから、何も言えなかったんですよ。

 そしたら、いつもあんまり喋らないその男子が、言ったんです。

「セミはオスしか鳴かないから、おかしくないだろ」

 って。ふふっ。

 みんなのおかしいは、全部その子に集中して。でも、彼はあの日のアブラゼミみたいにまったく動じなくて。本、読んでました。

 あれが、人間相手の初めての恋だったかなぁ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 誰かに語ってる感じと、言葉選びに、こじらせが感じられる。 [気になる点] 中二病? でも主人公はもう中学生ではなさそう。 [一言] 大人だと考えるときつすぎるので、多分高校生くらいで、未だ…
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