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結論、全て夫が悪い。

作者: マオ

雪深い小さな村。秋から冬にかけては外に出ることも難しくなるから、織物や保存食文化が盛んで。

そんな村に生まれた私と双子の弟のセインは冬籠りの前支度の今日、人を拾った。


「レミ、この子生きてる」

「家に運ぶ?」

「運ぼー」


もう村の人達は外に出る時に分厚い防寒コートが手放せなくなってくる季節なのに、ドレス一枚。

同い年くらいに見える綺麗なドレス姿の、寝顔も可愛くて綺麗な女の子を魔法で浮かばせて、家まで運んだ。

結構汚れてるドレスから、質素だけど村人の服としては上質に入る部類の普段着に着せ替えて寝台に寝かせる。

何故かその途中で、セイが女の子に触れて不思議そうな顔をしていた。


「甘い香りがするの」

「不思議だね」

「不思議ー」

「食べちゃ駄目だよ」

「食べないよー」


ほわほわと笑うセイが女の子が着ていたドレスを丁寧に洗って畳んで、棚にしまった。

とりあえず、お父さんは今年最後の狩り、お母さんは畑作業をしてるから、私達はそれぞれの仕事だ。

セイは家庭作業系の魔法が得意だから織物で、私は魔法で作業を進める製薬作業。売筋は好調。

冬の間に使える、ぽかぽかして体温調節になる丸薬と風邪を引いた時の為の風邪薬。この二種が主。

他にもちょこちょこと手を出してはいるけど、みんなが必要とするのはこの二種類の薬が多い。

あと、狩りができる時期は増血剤とか、傷薬、生薬の調合が多いかな。植物の病気を治す薬もある。


秋の終わり頃から春の始め頃まではお母さんとセイが織物をやって、お父さんは細工物を作る。

今年は一人増えたところで何も問題無いくらいの蓄えが村中にあるから、のんびりした生活になりそうだ。

ふわふわの紫髪が柔らかくて触り心地のいい、髪より薄い紫色の瞳の女の子は私とセイと同い年だった。


同じシャンプーや石鹸を使っている筈なのにやっぱり良い匂いがすると、セイが不思議そうにして。

困惑していた女の子曰く、セイは獣人のお父さんの血が強いから番に反応しているのかもしれないと。

お父さんに質問してみたら、お父さんも番のお母さんからはいつも甘い匂いがすると言っていた。


「多分番だと思う。そういえば名前は?私はレミリア。レミって呼んで」

「ぼくはセインだよー。セイって呼んでほしいな」

「あ……わたくし、は」


ふと、今までセイに匂いを嗅がれて赤面しながらも我慢していた女の子が暗い顔をした。

言葉遣いは丁寧だし、ドレスは綺麗だったし、見下す態度は見られないけど平民にも慣れてないっぽいし。

多分訳ありだろうなって思ってセイに視線を向けたら、セイも同じようにこちらに視線を向けていて。


(追求しない方がいい、かなぁ?)

(名前考えよう。逃げてるなら実名は危険だし)

(そっか。それに髪色と瞳の色も珍しいしね)


無言で、テレパシーと呼ばれる類のお互いにだけしか理解できない会話を交わして、外の景色を見る。

丁度今年最初の雪が降り積もり始めて、小さな欠片みたいな白い雪がしんしんと空から落ちてきている。


「スノウだと在り来りか……ヴェティにしよう。お母さんが前言ってた、どっかの国の雪の表し方」

「あ、それいいね。ヴェティか……なら、ヴィーって呼ぼう!」

「え……?」


名前決まってからすぐに愛称をつけるか……まあ、別にいいけど。


「名前、ヴェティでいい?嫌なら他の名前考えるけど」


紫色の瞳を覗き込んで問いかけると、静かにふるふると首が横に振られて、鋭い雰囲気の切れ長の瞳が潤んだ。

そうすると空気も、どこか張り詰めたものから年相応の柔らかさを持つように変化して。


「ありがとう、ございます。素敵な名前ですわ……大事にします」


泣くのを堪えるように唇を噛み締めた少女のことは、番認定したセイに任せることにした。


子供なら泣きたい時に泣くのが普通だ。少なくとも平民はそう。

商人でも、貴族でも、もし仮に王族だったとしても、ヴェティになった少女は前の立場を捨てたんだし。


しばらくしてから温めたココアと濡れタオルを持っていくと、ヴィーはセイに抱きしめられていた。

子供ながらにお似合いな図である。絵にして売ったら儲かりそう。

ヴィーにココアのカップを渡して濡れタオルで目元を冷やしたり、冷えすぎないように離したりもして。

落ち着いたヴィーには謝られた。泣くことなんて大人でもあるんだから気にしなくていいのに。


「ヴィーはね、きっといっぱい頑張った」

「だから、もう気を抜いていいんだよ」

「ここはヴィーのことを知らない人ばっかりだから」

「ヴィーのことを傷つける人は、ぼく達がぼこぼこにしてあげる」

「「泣いて、甘えていいんだよ?」」


交代に話して、右側と左側からヴィーに抱きついた。

それでもう一回泣いてしまったけど、ヴィーはすっきりした顔をしてたから、とりあえず目が痛くならないように薬も新しく作って尽力した。セイの迅速な対応と私が作った薬の効能のお陰で目が腫れたりはしなかった。


ヴィーを拾ってから六年が経って、当時九歳だった私達は十五歳になった。

ヴィーはセイの恋人になり、結婚可能年齢となる去年結婚した。子供はまだ作らないらしい。


「子供を二人くらい養える貯蓄をしてからじゃないと!」

「……ああ、双子かもしれないもんね」

「うん」


セイと私は変わらず仲良しだし、ヴィーと私も仲良しだ。ヴィーは可愛いから村の人気者でもある。

一見鋭くて冷酷そうにも見えてその実、セイに手を握られただけで顔を真っ赤に染めてあわあわする子だから。

ほわほわして見える美少年のセイとクールビューティーなヴィーのカップルはお似合いだ。


「俺もそろそろレミに告白の返事貰いたいんだけどな?」

「……おお」

「ねえ、それ忘れてた時の反応だよね」


隣の家に住んでいる幼馴染のマオリ、セイと同じく最後だけ縮めてマオと呼んでいる彼が呆れた顔をする。

そういえば三年くらい前に告白されて保留にしていたような気がするなぁ、と。

思い出してぽんと手を打ったら、マオがちょっと怒ったらしく軽くチョップを落とされた。


家族ぐるみで仲良しで、私やセイが転んだりしたらすぐに治癒魔法で治してくれて、同い年だけどお兄ちゃんみたいな存在で、雪の色と同じ真っ白な髪が綺麗で、碧い瞳が綺麗で、かっこよくて、背が高くて、綺麗。

製薬作業に疲れて寝落ちすると、いつもマオに声をかけられて目を覚ますまでがワンセットだ。


「もっかい告白してみ?」

「何でそこで照れ隠しするかな……一回しか言わないからね?」

「録音しよ」

「やめなさい」


上から目線になるのが照れ隠しだと見抜いて、言ってくれるんだから私に甘い。

録音の魔道具は取り上げられた。残念。


涼やかに通る落ち着いた声音が好きで、お母さんの読み聞かせより寝る前のマオとのお喋りの方が好き。


「……好きだよ、レミ。だらしないとこも製薬馬鹿なのも、全部含めて好きだから、誰かと結婚して家庭を築くつもりがレミにあるなら、俺との将来で考えて?絶対幸せにするし、俺の全部を使ってレミを愛するから」


マオも照れている。改めてこういうことを言うのはやっぱり照れ臭いものらしい。

くすくすと笑いながらマオに抱きついて、顔が見れないように耳元に唇をつけて囁いた。


「小さい頃からずっと、私の将来で結婚相手の枠にいるのは……マオだけだよ?」

「っ……!俺が恥ずかしいの我慢して顔見て言ったのにレミは顔見せないとか卑怯じゃない!?」

「むしろ顔見て言えるかこんなこと!」


言った後すぐに離れて、マオの抗議に普段よりも大きな声で返しながら背伸びして、その唇に口付けた。

息を詰めた気配に、逃げる余裕を確保したことを確信してぱっと身を翻す。

家から出て全速力で村の中を駆け抜け、最終的に森の入り口の木のうろに隠れた。


三年前だって恥ずかしさで保留にしたのに、三年経ったからってそれくらいで恥ずかしくなくなる訳がない。

どうせ幼い頃から傷ついたり嫌なことがあったりしてどこかに隠れる度に、私を見つけるのはセイじゃなくてマオだったんだから、すぐに迎えには来るだろうし……それまでにマオを見ても赤面しないように落ち着こう。


想定通り、十数分後にはマオに発見されて、自分で出るつもりはなくマオに向かって両手を伸ばした。


「本気で逃げる気ないならそもそも逃げないでよ……」


ふいと顔を背けて呆れた顔をするマオを視界に入れないようにして。

そしたら、マオが溜息を吐いた。別にここまでは予想通りで。

予想してなかったのが、腕を引いて身体を起こさせて、膝裏と背中に手を置いてお姫様抱っこされたこと。


「は!?ちょっこの年になってお姫様抱っこ!?どこのバカップル!?」

「うっさいよ逃げたのレミでしょう!」

「だとしてもこれは予想外だって!降ろせマジで!恥ずか死ぬからっ!」


ばたばたと暴れて抜け出そうとしても、何気に魔法が使えるだけでなく身体を鍛えてもいるマオの力には抗いきれなかった上に途中から暴れられないように苦しくない程度の力で押し込められて。

それでもどうにかして抜け出せないかと試行錯誤してもぞもぞしてたら、最終的にマオにキレられた。


「レミ、それ以上暴れたら今この場でキスするよ!!」

「ひゃうっ」


脅してる感じなのに脅しが微笑ましい類なの何で!?

微笑ましいけど断固拒否する。さっきキスしたのは私からだけど、ここ村の広場ですし!

セイを含む同年代の少年、青年世代からはマオに向けて応援の言葉が飛び交っていて。

ヴィー含む少女と、こっちは年代に関わらず女性達からは私の状況を羨む声が上がっていた。

正直羨むなら代わってほしい。他の人がマオに抱っこされるのはやだから自分の伴侶連れでお願いしたい。


マオの家のマオのベッドに転がされて、鼻腔を擽った柔らかいマオの匂いに一瞬意識が持っていかれる。

その一瞬が命取りだということは、マオと接するに当たっては常識だ。

何せ一人で魔法と剣と徒手格闘駆使して、国が総力を挙げてかかるような火竜を討伐する人だもの。

というかマオの能力値的には人と言えるのかどうかが怪しい。そして防音の魔法かけるのやめて。


「自分の喘ぎ声聞かれたいの?斬新な趣味だね」

「違うから!ってかやっぱりそうなるの!?」

「トーゼン。性欲含まない子供の時分から、俺がどれだけ我慢してきたと思ってるの?」

「子供できたら責任とってよ!?」

「当たり前じゃん、溺愛するし。ほらレミ、さっさと諦めて抵抗やめな?」


それはちょっと無理な相談ってやつかな!


着々と服を脱がしにかかってるマオからすればむしろ暴れてる私を利用してる節さえある気がするんだけど。

笑顔で肯定したマオ曰く、下着脱がされるまでわかってなかったのバ可愛い、とのこと。貶してるよね?

マオのせいでそれから丸一日時間が潰れた。貴重な薬草が揃ったから薬作るつもりだったのに。


私の要望をきいてぎりぎりまで製薬作業は続けさせてくれたけど、寝たきりになってるのはそもそもマオのせいだしそう甲斐甲斐しく世話を焼かずともご飯くらい自分で食べれると思うのですよ、慣れたけど。

ここら辺どう思う?ってお見舞いに来たセイとヴィーに質問したら、二人で顔を見合わせた後に笑顔になって。


「ヴィーに子供できたら僕も同じことやると思う」

「とても羨ましいですわ。セイ以外にされたくはないけれど」


もしかしたら自分がおかしかったのかもしれないと思った、珍しいことにぽかぽかと暖かい秋の日の午後であった。


ヴィーとセイのその後。

実は滅亡したどこぞの王朝の一人娘だったヴィーを追っかけて家臣だった人の息子達がヴィーに求婚しに来たり、セイを敵視したり、結婚を無効にしようと働きかけたり、散々やらかしたのでセイが怒って一掃してた。

私は子育てで忙しかったから参加しなかったけど、そうでなかったら一緒にやってたのに。


「やめようね」


自分だけしれっとセイに協力しといて狡いと思う。

後からヴィーとセイがいちゃついてるところを見せつけられた人達の阿鼻叫喚地獄とか聴いたって、その場にいないんじゃスッキリしない。ざまぁとは思うけど、私だってセイとヴィーの邪魔する馬鹿に何かやりたかったのに。

暴力は駄目だから、ヴィーとセイが一目惚れ同士ですぐにくっついた話とか。

或いはヴィーが寒いこの村の秋、外に倒れてたあの時何をやっていたのか問い詰めたりとか。


双子の片割れを抱っこしてあやしているマオをジト目で睨んだら、何を思ったか額にキスを落とされた。

抗議を示して無言でマオの肩に頭を押しつけてぐりぐりしてたら双子の姉の方に不思議そうな顔で見られたので、今後はやらないようにしようと誓った。正直自分でも与えられるダメージ的に甘えてるみたいで意味ない気がしたから。


「可愛かったよ?」

「うん、それ意味ないって言ってるのと同じだよね?」

「あはは」


笑って誤魔化された。

双子の妹の、マオと同じ純白の髪を撫でた。ちょっと癒された。


その年の春、ヴィーが三つ子を出産した。

まさか三人も同時とはって笑ってたけど……何気に五人くらい一気に生まれても大丈夫なくらいの貯蓄をしてたセイにはちょっと引いた。何を思って二十代にも入ってないのにそんなにお金と食料とを貯めていたのか。


(……他の奴が口出せないように、ヴィーはずっとぼくのものだって見せつけるつもりだから)

(納得した。頑張れ、セイ)

(頑張る。あ、そういえばレミって出産時の痛みを和らげる薬とか作れたりしない?)

(ヴィーに相談されて試行錯誤中)


セイが考えてること読まれてるよね?

じゃないと出産を終えてすぐに相談してきたりはしないと思う。普通なら多分、次の妊娠が判明した時とかだろうし。

三つ子の一人に離乳食を食べさせながらセイに視線を向けたら、セイは幸せそうに笑っていた。


「ぼくもマオみたいに妻と子供をしっかり養えるように頑張るよー」

「………………」


沈黙は、マオが嫌いだからって訳じゃない。

自分でマオが頑張ってくれてるのを認めるのが恥ずかしいのである。本人にいつもありがとうって伝えるだけで気力を使い果たして逆に慰められる人間を甘く見ないでほしい。肯定した日には一週間くらいマオの目を見れなくなる。

慣れるどころか、最近前よりも素直になるのが難しくなっているような気がする。何故だろう。

博識なヴィーに相談してみたら、少しの間考え込んだ後こんな答えが返ってきた。


「好きだからこそ、素直になれないのではないかしら?」


正直納得した。前よりもっとずっとマオのことを好きになってる自覚はあるし。

家族としての好きだった間は素直に言えてたけど、恋愛対象として見るようになってからは凄く恥ずかしくて。


つまりは、私の好きを際限なく増幅してくるマオが悪い。



結論、全て夫が悪い。

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[一言] 何気にチートだな…この村人達(笑)
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