紅姫 紅蓮
そんなわけで紅姫こと紅蓮のところへ紫苑はやってきた。
「失礼します。胡桃です。紫苑をつれてまいりました。」
とはいいつつも、御簾があって、それに紅姫の影が映っている。
胡桃は先に中に入って、紫苑に中に入るように促す。
そして、胡桃先輩が障子を閉めた。
「あーー、やっぱりこういうしきたりって面倒だわー」
唐突に胡桃は紅姫がいるにもかかわらず、その場に立って御簾の方へと歩き出した。
「ちょっと、先輩。姫様がいらっしゃるんですよ!?何やってるんですか?!ていうか、もう先輩いろいろと駄目ですよ!?ため口とか!!」
「なにいってるの?紫苑、わたしはいつもこんな感じよ?ささ、紫苑もいつまでも座ってないではやくこっちに来なさい。」
そういっても紫苑は立たずに姿勢を低くしたままだったので、胡桃が手を引っ張って御簾まで連れて行く。
「うにゃああああああ、ごめんなさいいい。謝りますから、減俸|(給料が減ること)と飯抜きだけはご勘弁してください、姫様ああああ。」
狂気ぎみに紫苑は声を上げながら、胡桃は御簾を上げる。
姫様の顔が見れちゃう!!??
紫苑は喜怒哀楽の狭間で、そんなどうでもいいこと一瞬考えたが、そこには着物を着た案山子が座っていた。
「 んにゃ???? 」
姫様→案山子→消えた→さらわれた→姫様付き給仕見習い失格→七級降格→減俸→ご飯食べれない
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ」
「うるさい!!」
胡桃による首への手刀により、紫苑気絶。
からの復活。およそ、気絶時間四秒という絶妙な胡桃の力加減。(おおよそ、発揮されることが少ないであろうスキルの一つ。)
「あ、すいません。なんか気絶してしまいました。」
「まあ、それは見ての通り知ってるわよ。それより、問題はあなたの金と食い意地への短絡な思考回路よ?姫様給仕たるもの、もっとおしとやかに可憐でかつ優美に、優雅に、宮廷たちからも羨望のまなざしで見られるような女性でなければならないのよ。この仕事は男性と出会う可能性も大きいんだから。」
「あ、はい。分かりました。あ、でもこの状況ってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
また、叫びだしそうになる紫苑を胡桃は口を塞ぐことによって、回避した。
「今、紅姫はこの隣の部屋で待機しているの。紅姫は高貴で特殊な方だから。」
「あーーーーー、だから私とは口を利いてくれなかったんですね!!」
「・・あんたって結構根に持つタイプなのね。」
とりあえず、と胡桃はそういって御簾の向こうにある障子を開けて、中に入る。
紫苑も胡桃の後を恐る恐るついていく。
「姫様ー。紫苑を連れてきましたよー。」
胡桃はいつも紫苑に声をかけているように紅姫にも同じように声をかけた。
その間、紫苑は部屋の中の豪勢さに驚いていた。豪華という言葉はまさにこのためにあったんだと視覚をもってして実感した。
部屋には紅姫という言葉面、文字にふさわしい赤によって構成されていた。
高い天井には紅い布がひらりひらりと舞うように、天女の衣のように高いところに置かれていた。よほど、背の高い人でない限り手を触れることすら叶わないだろう。
吊灯籠には火は入れられていなかったが、色は赤いのでまるで火が付いているようだった。
置いてある装飾品は白と赤と金による色合いが多かった。
テーブルは足が高く、それでいてしっかりと重厚に作られてある。
テーブルの側面には彫刻があり、蔓がかかれてある。おそらく形からして、天寿蔓というありがたい草を模したものだろう。紫苑にはそれくらいは知っている知識も持っている。一応、給仕見習いですから。
椅子も卓と同様に作られてあり、背もたれの部分には彫刻家のイニシャルがさらっと書かれてあった。この椅子にも天寿蔓が延びているように彫られていた。
卓の上には、かわいくてそれでいて優雅なピンク色のティーカップと何か書いていた紙と筆があった。
本棚には色んな本が適当に並べてあったり、積まれてあったりした。その形跡からして、姫様はなかなか勉強熱心のようだった。
絨毯は淡いピンク色の金のサクラの刺繍が大きくされてあった。壁紙、唐櫃(クローゼット的用途)、鏡台、化粧箱、目に見える全てが紅い。
そんな広い部屋の奥に、赤の天幕が張られた天蓋付のベットがあった。なんて立派な御帳台だ。紫苑の給料ではまず一生手に入らないだろう。
「あれー、姫様まだ寝ていられてるんですか・・・ヒメサマー、会いたがっていた紫苑がきてくれましたよー。」
とりあえず、天幕の外から胡桃は呼びかけたが手ごたえがない。
とは言っても、天蓋からでも寝息は聞こえてくるので、間違いなく姫様はいる。
「困りましたね。もう昼の二時を回っていますのに・・・。紫苑、あなた中に入って姫様を起こしてきなさい。」
紫苑は部屋のあちこちにおいてある高価そうな壺や花瓶、香炉に焚かれてある香の匂い、硯箱ばかりに目がいっており、声をかけられてびっくりしていた。
「あ、はい。え??姫様を起こすんですか?胡桃先輩やってくださいよー。」
「紅姫様の顔を間近で拝顔できるチャンスなのに、そんなに嫌がるなら私がやっちゃうけど・・・」
「やっぱりやります!!やらせてください!!」
紫苑はあっさり胡桃に乗せられる形で紅姫を起こすことになった。
とはいえ、確かに紅姫に会えるまたとない機会、しかも寝顔、こんな機会ははっきりいってもう二度とないだろう。
と内心、紫苑は確信していた。
(姫様、寝起き結構激しいから紫苑大丈夫かな~??)
すでに姫様の寝顔を知っている胡桃からすれば、紫苑の期待とは方向が逆を向いていたのだが・・・。
もちろん、紫苑は胡桃の仕事が姫付き従者のトップとは知らないので、胡桃の思惑なんてちっとも知らない。そして、おそらく興味もないだろう。
「姫様は、急に起こすのは怒りを買うかもしれないからやさしくするのよ。」
「わかりました、先輩!!」
起こし方を教えてもらっても、胡桃に何の疑問も持たない紫苑。
多分、どっか天然なんだろう。ちょっと、困りつつも胡桃は紫苑に天蓋に入るようにいった。
(ちょっとぐらい疑ってくれたら、私達の仕事について詳しく話す予定だったのにーー。)
聞かれないことにやきもきする面倒見のいい胡桃だった。
天蓋内
普通のベットより遥かに広いベットは、人が軽く五人くらい余裕で寝転がれる位のベットだった。
もちろんシーツは紅かった。
ひろーーーーーー、と思いながら紫苑は人影を見つけた。
こんなに広いと一人で寝るのは逆にさびしいのかも・・・。
広い赤の海の中横たわる小さな背中を見て、紫苑は早く姫様を起こしたくなった。
さすがに遠いので、靴を脱いで、ベッドにあがる。ベッドはふかふかで少し眠気に誘われたが、仕事であるので我慢した。
(もう、二度と上がれないだろうからもったいないよーー)
紫苑は頭をふって誘惑を断ち切る。
四つんばいになって、紅姫のところまで紫苑はやってきた。
紅姫は仰向けになっていたので、寝顔が丸見えだった。
「わー、めちゃくちゃかわいいーー」
髪は日々手入れされているから、さらさらでさわり心地がよさそうなやわらくて明るい紅い色。
ベットは天蓋だから暗いが、それでも紅姫の肌は十分に白いことが分かる。まつげが長くて濃い。眉も凛としていて、きっと目を開けばよりかわいい顔をするんだろう。
身長は目測で紫苑と同じくらい。おそらく年も近いだろう。
「うう、頬つねってうにゅーってやりたい・・・」
身分上、自粛。
さて、仕事仕事。
「姫様、紫苑です。姫様に呼ばれてきました。起きてください。」
紫苑が優しく、紅姫に呼びかけると、紅姫はゆっくりと赤の瞳を開ける。
紫苑はそのまま姫を眠らせないように話しかける。
「姫様、紫苑です。呼ばれたので、参りました。」
「し・・・おん・・・??・・あおい・・かみ・・・」
姫様はまだ眠そうで紫苑の髪の色をつぶやいていた。
かわいいなあ、と紫苑が癒されていた瞬間!!
姫様は意外にも力のある腕で紫苑の胴をしっかりとつかんだ。
そのままの流れで、紫苑を抱き寄せる。
紫苑はなにがなんだかわからずに抵抗する暇もなかった。
そのまま姫は力づくで無防備な紫苑と唇を重ねた。
紫苑はなにがなんだか分からないまま停止。
目の前には真っ赤な瞳が二つ。見つめていると吸い込まれそうになったので、目を閉じた。すると、やけに口の中に意識が集中した。
というか、なにか吸われている感じしかしなかった。
そんな感じで10秒くらい紫苑と姫様が唇を合わせたまま、酸欠状態におちいったところで急速に紫苑の意識が復活した。
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
とりあえず身体をねじって、全力で逃げ出そうと試みるが思いのほか細腕の姫様の拘束から逃げ出せない。攻撃するわけにもいかず、とにかく必死でもがいて、そろそろ意識が飛びそうなくらい頭がくらくらしてところでようやく拘束がとけ、唇が離れた。
紫苑は顔を真っ赤にして、脱兎のごとくベットから逃げ出す。
出たところで胡桃がいたが、そんなことお構いなしに壁の近くまで逃走して、うずくまった。顔がいままで生きてきた中でもっとも赤くなっているであろうことを感じるが、それ以上に恥ずかしかった。
(い、いま何してた???!!!え、え、え、え、え、え、え、え????なになになになになに??あれ、なに?!?!)
紫苑は唇をさわりつつ、パニックに陥ってた。
「あちゃー、やっぱりそんなことになっていたか・・・」
紫苑の様子を見て、なにか思い当たることがあるように胡桃はつぶやいた。
紫苑に話しかけようとおもっていた胡桃だったが、まだ話ができる状態ではなかった。
「紫苑にそんなことやったら、嫌われますよ。姫様。」
胡桃がそう話しかけると、天幕から姫様がようやく出てきた。
「おや、なんだ気絶してないのか。」
面白そうに顔をニヤつかせながら紅蓮は紫苑をウサギを追い詰めたオオカミのような目つきでみた。
因みに紫苑は恐怖感いっぱいで紅蓮を見ていた。
紅蓮は、真っ赤な瞳、真っ赤な長い髪の毛、紫苑と同じくらいか少し高いくらいの身長だった。
そして、なにより人の上に立つような高貴感と威圧感を全開にしていた。
ククッ、と紅蓮は笑う。
「我は紅姫、紅蓮。ありとあらゆる妖魔を完全にはらう唯一にして絶対の存在だ。紫苑、貴様は合格だ。今日、現時刻をもって私に全力で仕えろ!!」
紫苑はその自信に満ちた表情をする紅蓮を、見て思った。
イメージ通り、というか聞いていた通りの人だけど!!!!!!!!
「いきなりキスするなんて聞いてなかったわよおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
まさかのファーストキスが同姓で、しかも、初めからいきなりハイレベルだった。
かなり間あけてました。
こんなのろのろ進行の作者ですが、作品を読んでくれた読者様ありがとうございます。