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幻灯機

 

 両国の江戸東京博物館に行ってきた。


 コロナで空いているかと思って行ってみたら、休日の午後というのもあって、予想よりも混んでいた。


 チケットを見せて入口を通ると、黒を基調とした館内は広く、照明は落とされていて仄暗かった。最初に視界に入るのは、館内を見下ろすように架けられた大きな木製の橋だった。日本橋を模したもので、実際に渡れるようになっている。左右にはそれぞれ江戸と明治期の建物のレプリカがぼんやりと、灯りをともしながら建っていた。


 その橋からの眺めはなかなか良かった。


 前方には、江戸のお城のミニチュア展示があって、見物のお客さんたちがわらわらと集まっていた。

 来場者たちはこのミニチュア展示を見たあと、江戸幕府に関する展示へと誘導されて、江戸の基本についてなんとなく学んだのちに、階段を降りて、城下町の庶民の暮らしの展示へと行くようになっている。


 展示の大半は江戸の風俗に関するもので、そういった博物館のなかでは、ここは一番網羅的で充実していると思われる。もちろん、美術なら近くにあるすみだ北斎美術館の方が充実しているなど、個別に見たら優れている美術館や博物館はたくさんあるのだけれど。


 江戸エリアが終わると、明治から昭和までの展示に移る。

 その中に、明治から大正にかけての、近代化された都市の街並みのミニチュア展示の一画があった。


 その部分は黒い壁で囲われた室内のようになっていて、映画館の映画が始まる前の館内のように薄暗く、銀座とニコライ堂の街並みの精巧なミニチュアが、互いに対面し合いながらそれぞれガラスの奥に収まっている。

 それぞれの街並みの背景には、壁にライトで空が映されて、昼から夜、そして朝へと、時間による移り変わりが見られるようになっていた。


 入ってすぐに、銀座の西洋街の街並みのライトアップが始まったので、そちらを眺めてみた。


 石造りの新聞社や洋裁店の建物が並び、その手前の道には馬車と路面電車のあいのこのような乗り物が線路に沿って配置されている。それに、手押し車に車夫たち、車に乗ろうと待っている人、それから道を行き交う多くの人たち ……。


 照明がだんだん暗くなって、黄昏時になり、やがて真っ暗になる。夜になった。


 スポットライトが展示の一部分を照らし、幻灯機か現代の映写機が、その拡大映像を壁に浮かび上がらせる。


 夜道を急ぐ車夫、バルコニーに立って外の空気を吸っている紳士たち、新聞社の入り口の看板、立ち話する人々。


 ぽつり、ぽつり、と順番に映されていく。


 やがてガス灯に火をともす男が映されて、街道や建物の中に灯りがついた。


 地上の小さな灯りが街を照らしていく。


 そうしているうちにパッと灯りが消えた。背景が明るくなって、あっという間に朝になった。


 展示はそれで終わりらしく、しばらくすると真っ暗になり、お客さんたちは、もうひとつの展示へとばらばらと移動していった。


 とりあえず次のニコライ堂の展示の方に移動した。昼から夜明けまでのライトアップと、聖堂のミサのようなものが見れるような趣向になっていて、きれいな楽曲が流れた。それはそれで美しかったが、それでもなぜか、銀座の街並みに強く惹かれた。


 なぜだろう。

 儚さ、かもしれなかった。


 あっという間に消えてしまう、儚い灯火の美しい街並み。そうしたものに惹かれた。


 例えるなら蛍の灯りのような。限りある瞬間だけのもの。


 とても、きれいだと思った。






(追記)


 昭和のコーナーは、戦争前は上野の凌雲閣を中心に近代化を扱い、その後は戦時中の暮らしから、高度経済成長期の暮らしへと展示が移っていった。おもな展示は70年代くらいまでだった。


 ひばりヶ丘団地の展示があった。


 ひばりヶ丘団地とは、説明書きによると、当時としては画期的な自家用の風呂がある物件だったようだ。見た感じはちょっとレトロだけれど、今でも十分に住めそうではある。


 それから、花柄の魔法瓶や、ガチャガチャ式のテレビ、つまり、つまみがダイヤル式のアナログのテレビなんかが置かれていて、ある年代以上の人にとってはノスタルジックに感じるのではないか、と思う。


 残念ながら、レコードはないようだった。

 それに、ラジカセやウォークマンも。


家を掃除して、奥から出てきた杉浦日向子さんの漫画を久しぶりに読んでいたら、浮世絵とか草子とかが見たくなって、行ってきました。

絵だけならすみだ北斎美術館の方が充実していますが、こちらはからくりがあったりして、大人から小学生まで飽きさせないつくりでした。

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