岩波文庫
年末、心の余裕ができたので、年賀状作りも放っぼって、外に出かけた。
めんどうなことは、とりあえず後で。
外に出てみると、思いのほか明るくて驚いた。
冬らしい、薄墨混じりの水色の空の、東には白い月が消え入りそうにかかっていた。
ある程度大きな本屋に行きたかったので、電車に乗った。
目的は、仕事のための専門書探しである。
東京には大きな本屋がいくつかある。
東京丸の内口すぐには丸善、新宿には紀伊国屋書店、池袋のジュンク堂、神保町には岩波書店の直営店と…今は改装中だが、三省堂もある。
今回必要な本はある程度大きくないとなさそうだったので、そうした大きな本屋の一つに行ったのだった。
何冊かぱらぱら読んでみるが、ちょうどいいのが見つからない。
というか、売ってる本なんだから、もう少し内容は深く、知識は網羅して、きちんと整理した状態で読ませてくれよと思う。
昔の人が書いた本には、そんなのが多かった。
文系は知らないけれど。
それとも、いつの時代も本っていうものは玉石混交で、時間が経った今、石たちは淘汰されて、優れた本だけが残ったということであろうか。
石に若干、同情してしまう。
…自分、滅びの美学とか、好きなのかもしれない。
しかたないから、関連がありそうな本を何冊か買う。全部合わせればなんとかなるかなと思う。しかし高い。高い。が、しかたない。
そんなこんなで、せっかく来たからにはと、ついでにいろいろ見てみた。
岩波フェアをやっているという。
なんとなくタイトルを読んでいるうちに、大岡信さん… 茨木のり子さん、谷川俊太郎さんと同時代の詩人さんで、歳時記の本をたくさん出されている方…のエッセイが岩波文庫から出ているのを見つけた。
へえ、と思ってページをめくると、菅原道真 詩人にして政治家、というタイトルの章がある。
え?と思った。
道真公といえば、太宰府天満宮の神様である。
詩人とは、どういうこと?
道真さまには何度かお世話になっているので、ちょっと興味が湧いて、買ってみた。
内容をここに紹介すると規約違反かもしれないので詳しくは書かないが、詩って漢詩のことだった。
道真公は藤原一族と同時代の人だったらしい。
そんなことも知らなかった。
確か、漫画があったように思う。エンタメ推理ものだけど。
みなさまご存じのように、このお方は都で官僚をして大臣にまでなったお人だが、それが太宰府という当時の西の外れに左遷されてしまう。
ほとんど島流しくらいの扱いで、生活にも困窮したらしい。
本ではその前後の詩が取り上げられていて、なんていうかそれを読むと、道真公は本当に実在した人なんだな、そして、東風吹かば…という風流な詩どころではない諸々が伝わってきて、これはお宥めしなければ…と都人が畏れ奉った気持ちもよくわかる気がした。
今の時代には、ちょうど合うのかもしれない。
そんな未来まで詩が残ることを、ご本人はどう思うのだろう。
そんなことを思う。
その本は、道真さんがメインではなくて、和歌などに流れて続いていく、日本文学の底にある意識などが書かれている。
古今集、新古今集などは有名だけど、その後にもたくさんの勅撰和歌集が編まれているとか、室町時代の和歌は、今の時代の人にも分かる感覚だろう、だとか。
いろいろ知らなかったので、新しい発見があった。
ただの評論ではない。
ちゃんと、いくつかの作品が味わい深い文章とともに紹介されていて、日本文学好きなら外せない本だと思う。
ただ、好きな人には刺さるけど、興味ない人にはつまらない本かもしれない。
でもなんとなく、久しぶりにこころ動いたので、紹介してみたくなった。