ホットドッグ屋にて
近所のホットドッグ屋で素敵な老夫婦を見かけた。
ジャズやオールディーズが流れるわずか8席のその小さなお店には、古き良きアメリカ、とでもいうようなニューオーリンズを思わせる赤い丸椅子と古いけれどよく磨き込まれた木製のカウンターがある。オーナーは30代半ばくらいの寡黙な兄さんなのだが、出される作りたてのホットドッグは、パンがカリッとして、ソーセージも香ばしく焦げて、シャキシャキのレタスにピクルスの酸味が調和してなかなか美味しい。
昼間は普通のホットドッグ屋だが、夜は照明を落として紫やオレンジのライトで彩られたムーディーなバーになる。
夜に行ったことはないが、カクテルなんかも出すみたいだ。
店内には大きな液晶テレビがあって、サッカーやラグビーの大きな試合がある時には席が全部お客で埋まって、なんだか楽しそうにしている。
ある日のトワイライトタイムにいつも通りにその店の横を通り過ぎながら、ちらっと中を覗くと、いつもはオーナーさんしかいないか、お客が一人テイクアウトができあがるのを立って待っているくらいなのに、その日は違っていた。
出口に近いほうの二席に、お揃いのシャツにチノパンを合わせた70代くらいの老夫婦が腰掛けて穏やかに談笑していたのだが、まず、二人とも背筋が真っ直ぐで、なんていうか、颯爽としていて格好いいのだ。醸し出す空気が。
おそらくホットドッグとポテサラか何かを待っているところだと思うが、コーラにソーダ水か何かを飲みながら、ときどきお互いを見やりながら会話している。
あなたは、この曲が好きよね。
そりゃそうさ。僕が若い頃はこんなのがどこに行ってもかかってたもんさ。なかでもジミヘンは一番だね。もう別格。ジミヘンの良さは今の人たちには分からないだろうがね
あら、エルビスが一番とか言ってなかったかしら
(あらあら。つい先週、お友達がいらしたときにはエルビスについて熱く語っていたと思うのよねぇ)
いや、ジミヘンだよ。君にも昔よく勧めたじゃないか。
あら。そうだったかしら?
(あらま。いつ勧められていたのかしら?こういう話題になるといつも長いし、えらい複雑だから、家事をしながらふんふんと聞き流してしまっていたわ。こりゃ困ったね。あとでユーチューブでも見ないといけないかしら?)
そうさ。もちろん、エルビスもいいよね。あのスタイルは斬新だったな。僕のおやじも好んでいてね。君ともよく聴いたよね。
でもやっぱり僕はジミヘンの方がいいと思うな。
そうなのねえ。そう言われて見れば、いい曲ね。
(ちっとも分からないけど、こんなに楽しそうにしてるから、ここは水を差さないでおきましょうね)
そうだろう。そうだろう。ふふん。僕が勧めたからね。よく聴いたからね。
そうね。ふふ。
(そんなに勧められた記憶もなければ聴いた記憶もないけれど、こんなに得意げにしてるし、機嫌も良さそうだから、そういうことにしときましょうかしらね。ふふ)
と、まあ実際のところは分からないけれど、そんな会話をしていそうな空気が流れていた。
そして、そういうのもいいなと思った。
ただそれだけ。
音楽は詳しくないので、昔どこかで聞いた内容そのままです。雰囲気だけ味わってください。
私はジミヘンよりジョンレノンの方が好きなんですが。。