ある版画家さんへのオマージュ
月光照る 冬の林の
樹皮は白く灯っている
銀のように
霜のように
凍てついた川のほとりの
静謐の世界に漂う霧は
冷気にゆらめいたと思えば
木立の間を流れていく
明るい月夜の下
木々の輪郭は影絵になって
川にゆらゆら映りながら
遠い先の夜明けを待つ
そんな世界が広がって
時を越えていた
それは大正から昭和にかけて
描かれた版画のうちの一枚
今は昔となった
ある風景の記憶
その土地は憶えているだろうか
かつて自身を描いた版画家がいたことを
今その場所はアスファルトを敷かれて
なんの変哲もない街になっている
その画集の一ページを見ているうちに
画面の内に引き込まれていく
描かれた世界に入っていく感覚
霜柱を踏みながら
月夜の林を散策していく
きしり、きしり
かんじきを履いて
今よりも寒い冬景色の
枯れた川岸に庵を建てて
かの版画家氏が訪ねてくるまで
静かに暮らしていたい
そんな願望を、持っている
新版画というものがあるのを知りました。
川瀬巴水さんの画集に一目惚れして、夜寝る前に眺めていたらこんな詩のようなエッセイを書いていましたよ。。
……いや、やっぱりこれは詩かも。もうなんでもいいや。自分でも分からない(笑)
エッセイ読みの方への、詩への招待ということで。