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散歩という趣味

 

 散歩するのが好きだ。


 地味な趣味だとよく言われる。


 確かに何か、楽器演奏だとか料理だとか、手芸とかの方が、お上品で華やかな印象だと思う。バイクにボルダリング、アウトドアでキャンプなんかも格好いい。それと比べると、散歩って定年後の年配者の趣味じゃないの?という。


 それでも。


 歩くコースはあらかじめ決める時もあるし、決めないで思いつくままに適当に歩く時もある。こういう時に、都会って便利だなと思う。どんなに道に迷っても、ある程度大きな道路に出ればバスが通っているし、地下鉄の駅だってある。


 いちばんドキドキするのは、バス停で行き先を確認しないまま、一番最初に来たバスに乗ることだ。大きな町の停留所には、何々系統何某行きといった風にいくつか別の行き先行きのバスが停まることがある。そういうのがいい。ちょうどバス待ちの列が伸びている停留所があったらそれに乗ってみるのだ。


 知らない道、知らない町を、歩いたこともない住宅地や公園や、個人経営の会社のビルや小洒落た料理屋を通り過ぎて、右折したり左折したりして、どこに行くのかな、と想像する。


 行き先が大きな駅だったら、駅近くを探検してみてデパートの雑貨売り場を眺めたりするし、終点が○○車庫行きなんかで、たまたま河川敷のグラウンド近くに降ろされたりすると、さてこれからどうするかな、とワクワクする。何と言っても、これからどこでどう過ごすかを全て自分で決められるのがいい。


 自分の自由にしていい時間。


 なんて魅惑的な響きだろうと思う。


 私たちは生活のために働き、家族のために時間を使い、それはそれで必要で大事な時間ではあるのだけれど、ごくたまに、完全に自分で自分の時間を思うままにする、主導権を支配するというときが必要なように思う。




 散歩のよさは、思いがけない日常の発見にもあると思う。


 夕方、帰り道にちょっと思い立っていつもと違うコースを歩くと、ふいに長い下り階段が伸びていて、視界の先にきれいな夕空が広がっているようなときがある。


 たんたんたんと階段を一段ずつ降りれば、一瞬だけども、空に向かっているような高揚を感じられる。


 降りきるとまた普通の住宅地になるけれども、一般家庭のささやかな庭に見事なあじさいが咲いていたりする。結構どのお宅でも庭木や鉢植えなんかを置いて園芸をされていて、眺めさせて頂くのは楽しい。綺麗に咲きましたね、とお宅の奥さんに語りかけたりする。もちろん頭の中だけで。




 帰宅への道は割とあっさりしている。


 今はスマホのGPS機能があるから、まず道に迷うことはない。家までの時間を確認して、歩けそうなら歩くし、無理なら電車やバスなどの公共交通機関を使い、後はいつも通りの日常に戻る。帰ってからのことや買物リストを思い浮かべて、あれ買っておかなくちゃとか、そろそろ梅雨が来るからカビ対策しないととか細々したことが気になり始める。そうして帰宅して、また日常に戻っていくのだ。


 日常の中のちょっとした非日常


 なんてことのない、でもちょっと大事なリセットの時間。それが私にとっての散歩の位置づけで、けっこういい趣味なのではないかと思っている。お金もかからないし。










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