第7章 禁楼
皇帝シヴァとの謁見から数ヶ月後、すでに一同が陽王朝へ着いてから半年程が過ぎた。
この半年間、隠密活動を続けていたハヅキと七袖、そしてオングの3人はついにミツキの監禁されている可能性が高い場所を突き止めた。
「宮廷の北側に位置する『禁楼』です。」とオングが慎重に宮廷周辺の地図の一点を指差した。
「灯台下暗しとはこの事だな。」と七袖が答える。
禁楼とは皇帝シヴァの側女達と、彼女達に使える奴隷の女達が住む居住地域である。
「懐かしいね、ナナちゃん。」とハヅキは言った。
辛く悲しい思い出の多い故郷において、禁楼とは、短い間であったがハヅキが姉ミツキと、七袖とその母、4人で束の間の家族として暮らしていた場所だ。
すると七袖は宮廷と禁楼を含む周辺の地図を入手したオングを褒めた。
「すごいな…こんなもの良く見つけたな、オング殿。」
オングは七袖に褒められて少しだけ頬を赤く染めた。
「通常禁楼は、皇帝の妃達とその従者達が住んでいます。ですが…」
そう言いながらオングは禁楼の最北端に位置する建物と思われる記号を指差して言った。
「この建物は、特別な理由で収容されている女性の奴隷や罪人を監禁する場所となっている様です。七袖様、この場所をご存知ですか?」
代わりにハヅキが答えた。
「知ってる。ここは、私とお姉ちゃんが最初に連れられてきた場所。すごく寒くて、怖い場所なの。まさかお姉ちゃん、まだここにいるの?」
とハヅキの顔が弾きつった。
「ここは私も給仕として母と仕えていた場所だ。昔は、この王朝に連れられて来られた女奴隷達が最初に収容される施設だった。」
そこでふとずっと黙っていたバルキエルが言った。バルキエルは通常この様な真面目な話にはあまり口を挟まない。
「でもよう、この留学プログラムはあと半年も残ってるんだぜ。もしミツキの嬢ちゃんを救い出したとして、それからどうするよ。王国に帰るまで匿う場所を確保できるのか?」
珍しく真面な発言なのに「ちっ。」と舌打ちで返す七袖。確かにバルキエルの意見は的を得ていたからだ。
するとオングが顔を曇らせて答えた。
「カナン様によれば、その辺は大使である使徒様が手配してくれる予定でした。ですが今まで、パウロ様から何の沙汰もありません。」
バルキエルが腕を胸の前で絡ませて続ける。
「どうやらあのオッサンは期待しない方が良さそうだな。」
「貴様、その様な不敬な態度は生まれつきか。」と七袖が窘める。
どうもこの男の発言は神経に触る…と、七袖はイライラを隠さない。
「ジャンゴジャンゴ定期便㊂ですわ!」と突然セレステが会話に割って入った。
「なるほど…」とオングは顎に手を当てた。「さすがセレステ様、それならば運が良ければ一足早く、ミツキ様を救出できますね。」
とオングが話を進めるが七袖がそれを遮る。
「ちょっと待って。どう言う事だ?」
「JJによる月の第3週にある定期便ですわ。あれならば、貨物に紛れてミツキ様を王国まで運ぶ事ができるでしょう。」とオングが説明した。
「一緒にハヅキ様と七袖も王国に戻るのは如何かしら?ここに残るのは私だけで十分よ。」とセレステが提案する。
「そうだな。これは最後の手段として取っておこう。もし禁楼に忍び込むとしたら、やはり使徒様のお伺いを立てない訳にはいかない。」
七袖は、困った時は使徒を頼る様にとの王の言葉に忠実であろうとした。
「よし、ミツキの救出はJJ定期便の予定に沿って決行しよう。それまでに禁楼の中の様子を出来るだけ探るんだ。」
ハヅキと七袖はついにミツキを救う一歩手前まで辿り着いた。