第6章 七袖の味方
七袖とセレステがシヴァ皇帝の謁見から戻り、ハヅキには気がかりな事が一つある。
それは七袖がそれ以来少し塞ぎがちになった事だ。
シヴァ皇帝との間に何か…それとも宮廷で何かがあったのだろうか。
「シヴァ皇帝か…」
幼き日、陽王朝でハヅキと姉ミツキは七袖と出会った。
奴隷として連れて来られたハヅキとミツキを家族として迎えてくれた七袖。
しかし七袖もまた、この王朝で奴隷として扱われた。
彼女達にとって、シヴァ皇帝は奴隷王朝、そして恐怖と圧政の象徴的な存在であったのだ。
でも七袖はハヅキ達、双子の姉妹よりも、より多くの何かを背負っている様だった。
あれはハヅキとミツキが七袖と一緒に宮廷近くの大通りを歩いている時だった。
奴隷である3人が街に入るには制限があったが、七袖の母のため遣いに急いでいた時だ。
そこで大名行列の様に兵士を連れて歩くシヴァ皇帝と遭遇した3人は、他の人々と同じ様に皇帝に向かって地に手を着いて平伏した。
あの時の七袖の横顔をハヅキは今も忘れない。
七袖の頬を伝う汗、地面を睨む眼差し、そして深い、深い怒り。
七袖の両隣にいたハヅキとミツキは、地に這い蹲りながら2人で、七袖の両手をそれぞれ握ったのだ。
そうしておかなければ七袖は通りへ飛び出し、皇帝に襲い掛かってしまうのではないか。
ハヅキは幼いながらにそう思ったのだ。
「世話が焼けるなあ。」とハヅキはため息をついた。
そしてハヅキは『寵軍の門』の宿舎の庭で、漸く七袖を見つけた。
「ナナちゃん、柄にも無く黄昏てるの?」と茶化してみる。
(これで乗ってきたら、「気持ち悪い。」と返そう)と考えるハヅキ。
しかし七袖は答えない。
暫く気まずい沈黙が流れる…。
そこでハヅキは、ついに単刀直入に突っ切る事を決めた。
「シヴァ皇帝…、あの人はナナちゃんを苦しめる人なの?」
今度は思ったよりも、真剣な声が出てしまった様だ。七袖が漸くハヅキに振り返った。
「終わった事だ、ハヅキ。気にするな。」
(いや、これ気にしてよってフリですよね?)とハヅキは考える。
しかしさっさと宿舎へ戻ろうとする七袖の背中がどうしても寂しそうだったので、ハヅキはとりあえずその背中に飛び乗って見ることにした。
「えいっ!」
「イタっ!おいっ!降りろっ。」
「えー歩けなーい。昔にみたいにおんぶー。」
と戯れ合う2人。
相変わらず本心を中々打ち明けてくれない七袖だが、ハヅキを背負う七袖の表情が少しだけ軽くなったのを見て、ハヅキは少し安心するのだった。
「大丈夫、ナナちゃん。私はいつもナナちゃんの味方だから。」