第2章 アスラ VS バルキエル
『寵軍の門』の一角にある闘技場の上に、図体のデカい2人が向かい合っている。1人は獣人族の様だ。その姿は狼の様に気高く、灰汁色の毛並みを門下生の制服とその上に纏った練習用の鎧から覗かせている。獣人に向かい合うもう1人の男は赤い髪を逆立て、獅子の様な黄金の瞳を輝かせながら片手に持っている大型の剣をブンブンと振り回している。
「へっへ。皇太子様、いいのかあ、手加減しねーぜ?」
と赤髪の大男、バルキエルが安い挑発を売る。
「ふっ。乗ってやろうじゃねえか、旦那!」と灰汁色の狼が答えた。
すると2人は勢いよくお互いに向かって飛び出した。「皇太子」と呼ばれた狼の方はバルキエルと対照的に、武器を持っていない。しかしその理由は直ぐに分かった。
『天空神ヴェルーネよ、我は闘神阿修羅の末裔。敵対者にこの爪を、この牙に天啓を。』
皇太子が詠唱を終えると、その牙と爪が鋼鉄の様な黒い金属で覆われ、加えて鎧から覗かせていた灰汁色の体毛が通常よりも長く伸びた様に見える。
「そうこなくっちゃなあ!アスラ様ようっ!」とバルキエルが大型の剣を一直線に真上から振り下ろした。
その斬撃を両手の爪で受け止めた大狼アスラはそのままバルキエルの剣を噛みとり、後方へ投げつける。
「こんなもんか、巡回修道士様ってのは!?」アスラは戦いをさらに煽る。」
「ふんっ、犬コロっがあ!」
たった一つの武器を失ったバルキエルは両拳を握り、その両腕を翳しながら唱えた。
『我が眷属、咆哮の剣よ。我が名は『神の雷光』、撃ち落とせ…』
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「一体何をしているのだ、あのグズ共は…」とその頃、闘技場を眺めながら七袖がセレステに尋ねた。
「相手は皇太子様よ。稽古ですって。」とセレステが緩やかに答えた。
「全く…相変わらず不敬な奴だ。」と七袖は呆れているが、先ほど皇太子も含め「グズ共」と呼んだ事はすでに忘れている様だ。
「そう?楽しそうじゃない。」とセレステは面白そうに闘技場を見つめる。
闘技場をちょうど眺める事のできるテラスで七袖とセレステ、ハヅキとオングの4人はこれからの事を話し合っていた。
するとオングは少しだけ躊躇しながら言った。
「七袖様、例の件についてそろそろセレステ様にもお話しするのは如何でしょうか。この国で私たちの結束は必須です。」
七袖は一呼吸置くと、そのままセレステに向かって答える。
「異論はない。国王からの命令を内密にするのは陽王朝の者に対してだけ。セレステは問題ない。」
そう言うと、セレステが嬉しそうに微笑んだ。
「あら、仲間に入れてもらえるなんて光栄だわ。それで何のお話?」
「それは私から詳しく説明致します。」
オングはセレステにこの留学の本当の目的であるハヅキの姉、ミツキの救出についてセレステに話した。
するとセレステは大げさに両手を口元に当てた後、涙目にハンカチを当てた。
「なんて健気な…ハヅキ様。このセレステ、必ずお役に立って見せますわ!」と片手でドンっと胸を叩くセレステ。
しかし、未だセレステへのスーパー人見知りモードを解かないハヅキが小声で呟く。
「イイ。」
そのぶっきら棒な声はどうやらセレステには届かなかったようだが、透かさず七袖が嗜める。
「コラっ、ハヅキ。セレステは強力な戦力になる。このパーティに眷属契約を終えているものが2人もいるのは心強い。」
それは暗に、バルキエルとセレステを指しての言葉だったが、オングが申し訳なさそうに付け加えた。
「あ、私も入れて3人です。灰色の教団に眷属契約を終えてない者はいません。」
そう言ってオングは気まづそうに微笑んだ。
アスラはリアル肉食系男子です。アスラとバルキエルが若干キャラ被ってない?と思ったので戦わせてみました。ザ・狼VS獅子!的な感じデス。