第24章 雪原の狼
雪殺の入り口付近。
シヴァは切り落とされた腕の口を粗布で巻きながら止血をした後、茫然と立ち尽くしていた。
雪嵐は過ぎ去り、雪原は月夜に照らされ銀色に静かに輝いている。
先ほどまで纏っていた黒炎はシヴァの衣服を焼き、まるで本物の狼が雪原に佇んでいる様に見える。
するとそこに、ひと回り小さいが彼と良く似た灰汁色の狼がもう1匹現れた。
シヴァの息子、アスラである。
アスラの灰汁色の毛はドス黒く変色した血で染まり、陽王朝の兵士の鎧も所々が砕けている。
シヴァはアスラが獣の様に4足歩行をしながら歩いてくるのに気付くと、アスラが口に何か大きな物体を咥えているのが見えた。
その物体から雪原の上に血が滴り落ち、アスラの歩く道を緋く染めている。
そしてアスラはシヴァの近くまで来ると、その物体をペッと吐き出し地面に投げ捨てた。
「すまねえ、帝。この吸血鬼の女の首を狩るのに少し手間取った。」とアスラは汚いものを見る様に地面に転がった女吸血鬼、ペトラに視線をやった。
「アスラよ、事は緊急を要する。サピエンティアへは早急に行かせよう。その間に、近隣にある小国の偵察を頼む。」とシヴァは歯痒そうに牙を剥き出した。
「近隣の小国?」とアスラは言った。
「ウォルグレイブ…そしてエルグレイブへ。我が王朝にここまで吸血鬼が侵略して来るなど前代未聞。もはや条約は破棄されたものと考える。ワシも舐められたものじゃ。」
「おいおい、帝。ウォルグレイブはともかく、エルグレイブだって?あの国はすでに滅ぼされたんじゃ無かったのか?」
「廃墟すら残らないほどにな。あの国と対をなしていたウォルグレイブになら、その痕跡が残っているやもしれぬ。」
「かつての墓守の三国か…。確かに、ウォルグレイブへ行くなら今が丁度いいかもしれないな。この借り、倍にして返して来るぜっ。」
そう言うと、アスラは両手を組んで腕を鳴らした。
「それにしても、例の囚人を王国へ渡しちまってもいいのか?」とアスラはシヴァに尋ねた。
するとシヴァは少しだけ面白そうに笑って答えた。
「ふっ、カナンめ。あの小僧、どさくさに紛れおって…」




