第1章 寵軍の門
陽王朝の宮廷東側には、兵士育成のための軍付属教育機関、『寵軍の門』が在る。寵軍の門には門下生達の戦闘技術を磨くため、洗練された教育と訓練が施され、闘技場も数多く併設されている。
季節は晩秋を迎え、異国からの交換留学生であるハヅキ、七袖、セレステの3人は護衛である巡回修道士のバルキエルとオングと共に、『寵軍の門』にて陽王朝の門下生と日々を送っていた。
だが一同が陽王朝での生活に慣れた頃、ある事件が起きた。陽王朝では人間族は奴隷階級と見做され、それを当然と考える特権階級の獣人族がハヅキ達に絡んできたのである。
ある日、実技演習のために闘技場へ向かうハヅキと七袖、セレステの前に獣人族の門下生達が現れた。
「人間族が、この由緒正しき『寵軍の門』に入るなど、一体どんな手を使ったんだ?」
と高いウサ耳を頭の上に2本生やした門下生が言った。
「ふっ、所詮雌らしい手を使ったんのでしょう。」
ウサ耳を取り巻くネコ化の姿をした他の門下生が答える。
「う、ウサギさん…」とハヅキの目が輝く。
「きゃあ、なんて可愛らしい!こちらはネコさんね!」とセレステが続く。
するとウサ耳は耳の端を赤くして叫んだ。
「なっ、馬鹿にしてるのか貴様!雌の分際で!」
それを無視して、ハヅキはあろう事か「えいっ!」とウサ耳に飛びついた。
「イタっ!お前っ、イッタ!何しやがんだ!」とウサ耳が両手をバタバタさせた。
「あっ、あれこのウサ耳本物…」とハヅキは不思議そうにグイグイとウサ耳を引っ張る。
ウサ耳は涙目になりながらハヅキに抗った。
「き、貴様…誇り高き獣人族のウサ耳をおおお!」とすでに誇り高き獣人族としての彼の容姿が「ウサ耳」である事を受け入れた様だ。
しかし、「誇り」と言う言葉に反応した七袖が凄味を利かせて前にずいっと出た。
「誇り高き獣人族は、この様にか弱い雌に絡むのか?」とその手を腰に帯びた長剣の鞘へ伸ばしている。
今日も腰まで延ばした黒髪をポニーテールに結び、その長身に良く似合う『寵軍の門』の制服が凛々しい七袖。
(誰が、か弱いって?)とハヅキは心の中で突っ込んでみる。
「ひいっ」と悲鳴を漏らしながら、取り巻きの門下生達が慌ててウサ耳の背中に隠れた。
「ま、まず名を名乗れ!」とウサ耳が精一杯の虚勢を張る。
「私は七袖。こちらはかの王国の姫君、ハヅキ殿下であられるぞ!」と七袖が煽る。
どの国でも家名と権力をひけらかす者は王族と言う言葉に弱い。
「な、なんだと…姫?このチンチクリンが??」とウサ耳が呆気に取られている。
「私はセレステと申しますの。可愛らしいウサギさん、ご機嫌よう。」とセレステが続けて挨拶した。
「ウサギさんではないっ!我は兎族の長子…」
「じゃあ、ピョン吉で。」とウサ耳が名乗る前にハヅキが人差し指を頬につけながら、面白そうに答えた。
「ぴっ、ピョン吉だとおおおお!許さん!貴様、刀を抜け!」
「ね、ねえアウリス。刀は闘技場のロッカーの中だよ…」と申し訳なさそうに取り巻きの1人、ネコ耳が言った。
(ネコ耳も可愛い…肉球あるのかなあ)とハヅキは良からぬ事を考え出す。
「くっ、くっそー!覚えてろよ!」
とそのままアウリスと呼ばれたウサ耳は他の門下生と共に走り去って行った。
「凄まじい走力だな。さすが兎族と言ったところか。」と七袖は感心している様子だ。
「えー、肉球…。触ってみたかったのに。」と残念そうにハヅキが呟いた。
するとセレステがクスクスと笑いながら言った。
「さあ、私たちも急ぎましょう。王国の代表として遅刻は許されませんわ!」
サピエンティア、マギアしかり、中々『学園もの』をしっかり描き切れない『槍の王』シリーズ。。やっぱりいつか番外編の学園ものやりたいっ!書きたいっ。ってその前にちゃんと本編頑張らねば…