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焦燥と月下のマギア(下) 奴隷王朝の乙女  作者: Sy
槍の王 第4部
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第16章 アンドラス侯爵

 七袖ナナソデを置いて雪殺せっさの収容施設内に侵入したハヅキとセレステは、ついにバルキエルとオングと合流した。


 人の気配のしない雪殺の内部は薄暗く閑散かんさんとしている。


「ここは、集会場ホールの様な場所か……」とバルキエルがつぶやく。


「集団の奴隷を収容する場所。今は使われていないみたい。でも、どうして人の気配が無いのかな……」とハヅキは前もって予習していた雪殺内部の見取り図の記憶を手繰たぐり寄せる。


「考えたくはないですが、すでに中の人間は吸血鬼にされているかもしれませんね…」とオングが言った。


「き、吸血鬼?」とハヅキが驚く。


 オングは雪殺の裏口付近での顛末てんまつをハヅキとセレステに話した。


 もし雪殺内の全ての人間が吸血鬼に変えられてしまっていたとしたら、その数はかなり多い筈である。この施設内には、奴隷、罪人、看守、警備兵、その他の職員がたくさんいたのだから。


「人がいないのは逆に好都合ですね。もう変装の意味がありませんが…」とセレステが何故か残念そうに言った。


「早く、お姉ちゃんを見つけなきゃ!」とハヅキの気が急く。


「そうですね、ハヅキ様。私達の目的はあくまでもミツキ様の救出。吸血鬼に時間を当てるのは避けましょう。」とオングが提案する。


「でもよう。肝心のお嬢ちゃんが吸血鬼にされてたりはしねえよな?」とバルキエルの言葉にハヅキが固まる。


 しかしそれをセレステが柔らかく否定した。


「考えられなくはないですが、ミツキ様はどこかに監禁されているのでしょう?その場合、逆に安全かもしれませんわ。」


 少しだけホッとするハヅキ。


 すると不安そうなハヅキにいち早く気づいたオングがハヅキの手を取って励ました。


「ハヅキ様、きっと大丈夫です!さあ、行きましょう。」


 オングの優しい笑顔がハヅキの不安をほぐす。そしてオングが続けた。


「あまり時間がありません。少し危険を伴いますが、やはりもう一度二手に別れましょう。シャーロット様から頂いた施設内の見取り図を使い、ミツキ様が囚われている可能性のある部屋を虱潰しらみつぶしに当たります。」


 本来の計画をきちんと把握し、再確認させてくれるオングの存在が頼もしい。


 一同はそのオングの言葉に一斉にうなずいたかの様に思えた。


 しかしセレステがおもむろに言った。


「オングさん、バルキエルさん、ハヅキ様をどうかお願い致します。私はやはり一旦戻ります。」


「えっ」とハヅキが動揺する。


 するとそんなハヅキを安心させるかの様にセレステが言った。


「ハヅキ様、私はもう一度雪殺の入り口へ。七袖を……」


 その瞬間、突如ホールの空間が歪んだ。一瞬にして重力によるプレッシャーが増し、ホールの空気が淀む。


 そして一同は空中に突然何者かが出現した事に気づいた。


 4人の頭上に現れたのは、人型の身体にふくろうの姿をした頭部を乗せ、その背中には天使の様な翼を広げた存在が、鋭く長い剣を携えながら巨大な黒い狼の様な魔物モンスターまたがっている。


「クソ、今度は何だよ!?」とバルキエルが頭上の存在のプレッシャーをものともせず叫んだ。


「こ、この姿は…」オングの額には汗が浮かんでいる。


 オングの表情から、ハヅキはその存在が只者では無いことを悟っていた。


「まさか…これがシャーちゃんが言っていた…」とハヅキが囁く。


 狼狽する4人を前にその存在は言葉を発した。


『考えるな、人間よ。逃げ道はすでに絶たれた。』


「うおっ、なんか喋りやがったぞ!?」とバルキエルが戦闘態勢に入る。


「ダメです!逃げましょう!」とオングが大声で叫んだ。


 セレステもオングに賛成の様だ。警戒は怠っていないが、レイピアは鞘に収めその存在の死角を探している。攻撃ではなく、逃げるために。


(おそらくシャーロット様が忠告していた爵位を持つ悪魔。マズい……ハヅキ様だけでもここから逃さねば。くそっ、しかしどうする。この施設には吸血鬼も……)


 と、オングは次の行動に躊躇している。


「ソロモン72柱の1人、地獄の大侯爵アンドラス…」とオングはシャーロットから言われ調べていておいた悪魔学の情報を思い出していた。


如何いかにも。我は破壊の王。』


 オングの考察を他所よそに、アンドラスはその腰に帯びた鋭い剣のつかを握った。


「ソロモン…?」とバルキエルが手を顎に当てて呟いている。


 アンドラスは剣を鞘から素早く引き抜くと、それを頭上に掲げながら言った。


『だがたがえるな。我の壊すものとは何か。』


「皆さん、逃げてっ!」とオングが叫ぶのと同時に、アンドラスの剣が振り下ろされた。

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