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焦燥と月下のマギア(下) 奴隷王朝の乙女  作者: Sy
槍の王 第4部
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第13章 雪殺の雪嵐

 次の満月の夜がもう3日後に迫っていた。


 禁楼きんろうの南門周辺にある楊美宮から雪殺せっさまでは、およそ3日の道のりである。人目につかぬ様、夜に出発する必要もあった。


 その夜全ての準備が整い、一同は楊美宮の裏口へと集まっていた。


 ハズキと七袖ナナソデ、そしてセレステの3人は雪殺に仕える警備兵の変装をして潜入する。


 オングとバルキエルは、雪殺よりもさらに北にある禁楼の北門近くから禁楼内へ侵入する事になっていた。北門から雪殺までは数日の道のりの為、既に2人は禁楼内に入っている可能性が高い。


 出発前、シャーロットがある物をハヅキに手渡した。


 それは綺麗な東洋のデザインで作られた鈴のついたブレスレットだった。


「ナニコレ?」とハヅキが目を点にして尋ねると、シャーロットが恥ずかしそうに耳打ちした。


「御守りですわよ!」とシャーロットが囁いた後、改めて3人に向かって両膝を付き、頭を垂れると王国式の兵士を見送る際の敬礼をしながら言った。


「皆様どうぞミツキ様を救い出し、ご無事でこの楊美宮までお戻り下さいませ。その後は使徒パウロ様とアタクシにお任せ下さい。」


 そして一行は雪殺へと旅立った。


 3日の行程はあっという間に過ぎ、途中何体か白豹や虎の様な姿をした魔物モンスターに遭遇したが七袖とセレステによって、華麗に蹴散らされた。


 気温の低い北への移動の為、3人とも冬用の暖かいコートやマントに身を包んでいる。ハヅキに限っては頭部の2倍ぐらいはあるフサフサの毛皮の帽子を被っている。


「陽王朝の兵士達がこの辺の魔物モンスターを根絶やしにしない訳だな。」と七袖が言った。


「そうですわね。どちらかと言うと、彼らは獣人族に近いのでしょう。」とレイピアについた鮮血を空中で払いながらセレステが答える。


「後で外交問題になったりしないかな。希少動物の殺傷とか言って…いや、この場合殺人…?」とハヅキが自問自答を始める。


 するとセレステがクスクスと笑った。


「ふふ、さすがハヅキ様。この国での獣人としての定義は何かを考えていらっしゃるのね。」


 ちなみに現時点でハヅキのブ厚い人見知りバリアはセレステに対して全く解かれていない。


 その鋼鉄のバリアを気にも留めないセレステは、(人としての定義か…)と人知れず思った。


 このワクワクする旅が永遠に続き、友人達といつまでも一緒に戦う事ができたなら、どんなにいいだろう。 


 セレステはそう願わずにいられない。


(私の思い、私の願い……)


 それを受け止めるのは、この降り積もる雪が溶けて登る空の上か。


(それとも氷雪の地面の下か……)


 セレステの問いが吹雪の音にかき消されていく。


 そしてハヅキはセレステの褒め言葉のせいか、それとも雪原の上での寒さのせいか、頬を赤くしてうつむいていた。


(お姉ちゃん……もうすぐだよ。)


 ハヅキはそう心の中で囁くと、シャーロットからもらった御守りをギュッと握りしめた。


 御守りについた小さな鈴がシャランとささやかに雪原に響く。


 一方セレステとハヅキの間に立つ七袖も心の中で再び決意を固めていた。


(今度こそ、ミツキを救い出す。みんなで王国に帰るんだ。)


 一同の前方には薄暗い空の下、荒れ狂う吹雪が待ち構えている。


「あれは……」と七袖が警戒した表情で目前を見つめた。


「どうやらこの嵐を超えなければならない様ですね。」セレステも慎重な声色だ。


「行こう、もう雪殺はすぐそこ。」とハヅキが勢い良く前方に踏み出した。


 3人の少女がそれぞれの思いを胸に、雪殺の前を阻む雪嵐を見つめていた。

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