第11章 楊美宮の茶会
予定がガンガン押しておりますが、第11章更新です。応援どうぞよろしくお願いします。寒い冬、皆様お身体にはお気をつけて。
翌日、ハヅキ、七袖、セレステの三人は楊美宮にある茶室に招かれていた。
招待主は無論シャーロットである。
畳が敷き詰められた茶室の床にはハヅキの席にだけ腰を下ろす為の座布団が無い。
「ああら、ハヅキ様はこの様な東洋の部屋に慣れているかと思いまして。そのままお座りくださいな。」
いつものツンモードか、とハヅキは溜息をわざと大袈裟に吐いた。
そしてそのまま足を崩して座ろうとするとシャーロットが透かさず言った。
「勿論正座ですわ。」
泣く泣く正座で座るハヅキを横目にセレステが早速丁寧に挨拶をした。
「シャーロット殿下。この度はこの様な素敵なお茶会にご招待頂き、ありがとうございます。」
するとシャーロットは頬を赤らめて答えた。
「いえ、そんな。七袖様とセレステ様はアタクシの大切なお客様。当然ですわ。」
(この公開2重人格はある意味清々しいな……)とハヅキは思った。
そして一同は暫く、禁楼周辺で取られた葉で用意された美味なるお茶を楽しんだ。
陽王朝の文化では茶会の前にこの様に茶や菓子を楽しむための沈黙の時間を設ける。そして招かれた客が最初にその沈黙を破る事が出来た。
「シャーロット、本題に入ろう。」と七袖は静かに言った。
「はい、七袖様。大体は承知しておりますわ。王国の親善大使として七袖様とハヅキ様が選ばれた時から、お二人がここを訪ねてくるだろうと思っていましたの。」
その言葉を聞くと、セレステが感心した様に言った。
「シャーロット様は聡明でいらっしゃいますね。」
ツンデレ巻き毛が益々顔を赤らめて答える。
「そ、そんな事ございませんわ!アタクシとこのお二方が旧知の仲であっただけのこと。」
「こんな人知りません。」とハヅキはしれっと言い切る。
しかしハヅキの言葉を他の3名は完全無視して会話は進んでいく。
「それでハヅキの姉、ミツキのことなのだが……」と七袖が切り出すと、シャーロットが待っていたかの様に答えた。
「ハヅキ様の姉上殿は、かつての奴隷収容施設。禁楼の最北端にある「雪殺」と呼ばれる建物に軟禁されています。」
シャーロットは驚く程、ミツキ救出の為の手順を既に整えていた。それは明らかに長い時間をかけて準備をされていたものだった。
その証拠に雪殺の警備体制、ミツキが囚われていると思われる部屋の位置、禁楼に入場許可証なしで出入りする方法等を調べ尽くしていた。実際に雪殺内の見取り図を入手した事に至ってはプロのスパイ顔負けである。
だが、妃の1人としての立場を大いに利用した事は言うまでも無いだろう。と言う立場を大いに
それに、シャーロットは随分前からハヅキと七袖が訪ねてくるであろう事を予期していたのかもしれない。留学プログラムの選抜結果の出るそれよりも大分前に、とハヅキは思った。
「シャーちゃん、どうして…」
「ふ、ふんっ。シヴァ様に嫁いでこの禁楼に住む様になってから、随分時間がありましたのよ。それも本当にうんざりするくらい。」
「ありがとう、シャーロット。これで私たちの計画をかなり早く実行する事が出来る。」と七袖が言った。
正直シャーロットの存在は一同にとって嬉しい誤算だった。
「理想的な救出計画の実行日は…」とセレステがジャンゴジャンゴ定期便㊂の時刻表を開く。
「2週間後……この日なら、ここ楊美宮と雪殺の移動時間を考慮に入れ、次の定期便に間に合います。ですがこれは本当にもしもの場合の最終手段、パウロ様の手配なされている脱出方法が失敗した事を考えてですが。」
ハヅキは小さな声で「次の満月の夜…」と呟いた。
「結構日は決まりだな。最終的な準備をするにも2週間あれば十分だ。私は外にいるオング殿とバルキエルにこの計画を伝えて来る。」と七袖は言った。
「最後にもう一つ、不穏な情報がございます。」とシャーロットは真剣な眼差しで言った。
「雪殺周辺には、強力な魔物が棲息しています。魔物だけなら皆さんの敵では無い筈ですが、そこにはおそらく……爵位を持つ悪魔が存在しているかと。これは確かな遭遇事件と、目撃情報が多数あり、既に悪魔学の教科書にも載っています。どうかご注意なされませ。」
するとセレステが目を爛々と輝かせながら両手を胸の上でパチンと叩いた。
「なんだかワクワクしますわ!」
その不謹慎な言葉をハヅキは気にも留めなかった。
姉を救うその日がもうすぐそこまで来ている。
そう思うとハヅキの胸も踊るからだ。
「そう言えば、シャーロット様。私はもしかすると、このお二人よりも長く陽王朝に滞在するかもしれないの。王国からの留学生はまだ国内にいる事を示し、皇帝の目を欺く為に。」
とセレステが唐突に言った。
「まあ、セレステ様っ!それならばこの楊美宮にいらっしゃいませ。寵軍の門よりも快適にお過ごし頂けますわ。」とシャーロットは嬉しそうに答えた。
そしてセレステも眩しい微笑を浮かべて答えるのだった。
「私たち、何故だか長い付き合いになりそうですわね。」