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焦燥と月下のマギア(下) 奴隷王朝の乙女  作者: Sy
槍の王 第4部
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インタールード2

皆様、2020年あけましておめでとうございます。Syです。今年もぜひ宜しく御願い致します。

その薄暗い洞穴は、『寵軍ちょうぐんの門』よりさらに東へ行ったところにある小高い丘の下にあった。


『白銀の騎士』と呼ばれたその少女は、銀髪の豊かな髪を後ろでまとめると、ため息をつきながらささやいた。


「ハーニエル様、私は…私はどうしたらいいのでしょう…」


それは心の中でつぶやいた言葉なのか、それとも声に出てしまっていたのか。


すると彼女の背後で男の声がした。


「かの堕天使に、あなた様の祈りなど届きませぬ。」


セレステは悲しげな表情で後ろを振り返らずに答えた。


「デセウス、こんなところまでついてきたのね。」


「はい、あなたの為なら何処どこへでも。ユア・ハイネス。」


その男はセレステと良く似た銀色に輝く姿をしながら、瞳は緋く輝いている。


「もう少し…これで最後なの、デセウス。だからもう少しだけ、私を私のままでいさせて。」


そう言うとセレステはデセウスの方へ振り返った。


その瞳には涙が浮かんでいる。


デセウスは、セレステの涙を見ると寂しそうな表情を浮かべて言った。


「なぜ、悠久ゆうきゅうの時を私達とお過ごし頂けないのでしょうか。ユア・ハイネス。私は…」


するとデセウスをさえぎってセレステは言った。


「デセウス、時が限られているからこそ、人間は美しいのです。」


「しかし、あなたに流れる仮初かりそめの血は、やがて枯れ果て散りゆく定め。それからようやく完全なヴァンパ…」


「止めて!」セレステは叫んだ。その悲痛な叫びはデセウスの胸を貫いた。


「あなたは、それ程までに人間を愛してしまわれたのですか?」


デセウスはセレステに恋い焦がれる者の様に尋ねた。


「私のたった一つの我儘わがままよ。お願い、デセウス。」


セレステの言葉に肩を落としたデセウスは諦めた様にひざまずいた。


「仰せのままに。ユア・ハイネス。」



ーーーーーーーーー



デセウスが洞穴の外へ出ると、月夜に照らされた人影がもう1人洞穴の入り口に立っていた。


主を待っていたその少女はフリルのついた白いドレスのせいか、闇世の中でも良く目立つ。


「ペトラか…」


気の沈んだデセウスを見たペトラがハッとして主人に尋ねた。


「セレステ様は…セレステ様はご存じないのですか!デセウス様がこんなにも…」ペトラは口をつぐむと主人に寄り添った。


「いいのだ、ペトラ。お前が私に仕える様に、私もセレステ様の下僕しもべなのだから。」


「それでも!それでも…勝手が過ぎます、あの女王は…」とペテロは口を尖らせて言った。


それはペトラにとって、彼女の主人はデセウスだけである事を示していた。


「時は近い。我らはセレステ様の為に、準備を整えよう。この束の間の旅が終える頃、我が女王はついに、我が祖国へご帰還なさるであろう。」


「ペトラは…、ペトラはデセウス様がいらっしゃればそれだけで良いのです!そもそも吸血鬼ヴァンパイアの国なんて…」


ペトラが続けようとすると、デセウスはペトラの唇の上に指を置いて言った。


「ありがとう、ペトラ。だがその続きはまた今度聞くとしよう。」


そう言うとペトラは頬を赤くして素直に主に従った。

2020年、Syの目標は『槍の王』シリーズ完結!と大きく出てみました(笑)。書くのが遅いSyですが、今年も頑張ります。応援どうぞ宜しく御願い致します。

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