表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
劣戦火に寄るエルケレス  作者: 蓬莱の人
2/2

第一話『魔物殺しの刻印』①

 息を切らして漸く畑が見えてきた頃、気を緩めると膝に手をつき中腰になってしまう。ぜぇ...ぜぇ...と重く白い息を吐きだしながら、肩を揺らす。


 寒い中これだけ村が一望できてしまうまで、離れた距離を走って来たのだから疲れるのは当たり前か。


 目には自身の口から吐き出される、白い吐息を映している。途切れ途切れに息と共に吐き出される、独り言は誰の耳に届く事はない。歩きながら畑へと踏み込むと、想像すらしていなかった光景を目にする。


 「なんだよこれ...」


 緩やかな丘に作られた芋の段々畑、その規模は四ヘクタールもの広さだ。その規模の芋は凍り付き、踏み荒らされている。


 作物が食われた形跡は無く、どれも踏まれたりして荒らされ、その中には刃物で切ったかのような跡まである。明らかに人為的な荒らされ方をした畑を前に、数十秒の間シエルダは」立ち尽くしていた。


 静かな辺りの風に乗り、遠くから微かに何かの声がした。


 「今の声は」


 人為的に荒らされた畑...この芋の切り口...嫌な予感がする。


 シエルダは村へと向け、先ほどよりも速く足を前へと進めた。走る度に荒らされた畑が脳裏を過る、それを考えると頬や額を冷や汗が伝うのを感じた。地面を強く蹴る度に、想像したくもないことが次々に目まぐるしく巡る。そして、その予想は...的中してしまう。


 HAHAHAHAHA――


 村には松明から火が放たれ、木造の民家ばかりの村は赤い炎で煌々と燃え上がり、その中で乾いた声で不気味に嗤う(わらう)骸骨達は|何も映さない頭部の虚空こくうで辺りを見ていた。


 どうして、何故...。


 言葉を幾ら並べようとも、思考は目の前の現実に耐えられない。思考は考えることを拒絶した。幾ら考えようとも、幾ら訴えようとも、この現実は変わってはくれない...嘘だとは言ってくれない。


 頬を涙が伝い、シエルダは燃え盛る民家の間を、赤い地面の上を走り抜けた。何故走るのか、考えも目的もなくただ兎に角今は走り続ける。自分が愛し自分が生まれ、自分が大切にしていたこの村がこんな目に合わなければならない。


 何故...何故...。


 「なんで、こんなっ...!ふざけるなぁっ!」


 シエルダの苦しい心から出た声は、村に広く響き渡る。しかしそれでもこの虐殺は終わらない、走り続けていたシエルダは足元から崩れ落ち、地面に膝をつけた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ