第一話『魔物殺しの刻印』①
息を切らして漸く畑が見えてきた頃、気を緩めると膝に手をつき中腰になってしまう。ぜぇ...ぜぇ...と重く白い息を吐きだしながら、肩を揺らす。
寒い中これだけ村が一望できてしまうまで、離れた距離を走って来たのだから疲れるのは当たり前か。
目には自身の口から吐き出される、白い吐息を映している。途切れ途切れに息と共に吐き出される、独り言は誰の耳に届く事はない。歩きながら畑へと踏み込むと、想像すらしていなかった光景を目にする。
「なんだよこれ...」
緩やかな丘に作られた芋の段々畑、その規模は四ヘクタールもの広さだ。その規模の芋は凍り付き、踏み荒らされている。
作物が食われた形跡は無く、どれも踏まれたりして荒らされ、その中には刃物で切ったかのような跡まである。明らかに人為的な荒らされ方をした畑を前に、数十秒の間シエルダは」立ち尽くしていた。
静かな辺りの風に乗り、遠くから微かに何かの声がした。
「今の声は」
人為的に荒らされた畑...この芋の切り口...嫌な予感がする。
シエルダは村へと向け、先ほどよりも速く足を前へと進めた。走る度に荒らされた畑が脳裏を過る、それを考えると頬や額を冷や汗が伝うのを感じた。地面を強く蹴る度に、想像したくもないことが次々に目まぐるしく巡る。そして、その予想は...的中してしまう。
HAHAHAHAHA――
村には松明から火が放たれ、木造の民家ばかりの村は赤い炎で煌々と燃え上がり、その中で乾いた声で不気味に嗤う骸骨達は|何も映さない頭部の虚空で辺りを見ていた。
どうして、何故...。
言葉を幾ら並べようとも、思考は目の前の現実に耐えられない。思考は考えることを拒絶した。幾ら考えようとも、幾ら訴えようとも、この現実は変わってはくれない...嘘だとは言ってくれない。
頬を涙が伝い、シエルダは燃え盛る民家の間を、赤い地面の上を走り抜けた。何故走るのか、考えも目的もなくただ兎に角今は走り続ける。自分が愛し自分が生まれ、自分が大切にしていたこの村がこんな目に合わなければならない。
何故...何故...。
「なんで、こんなっ...!ふざけるなぁっ!」
シエルダの苦しい心から出た声は、村に広く響き渡る。しかしそれでもこの虐殺は終わらない、走り続けていたシエルダは足元から崩れ落ち、地面に膝をつけた。