アイスの代償-1
公園での戸田との出来事以来、講習が終わったら公園でアイスを食べる。そんな日々が続いていた。
最初はいやいやだったが、妙にそれが普通になり、今では少し心地いい気分にもなる。
講習も終盤になり、今日もまたいつもの公園で待ち合わせ。流石に毎日はきついが、戸田がバイトの日だけ俺が先に待って一緒に食べる。特に恋が芽生えるとか一切ないし、今までもないと思っている。
腕時計を見て五時を回っていた。公園には誰もおらず、ひぐらしが泣いている。丁度戸田がきた。
「待った?」
「少し」
「ふーん、ごめん」
戸田は悪ぶれる様子もなくいつものように淡々とスマホをいじりながら、アイスを頬張っている。
少しは気にするかと思ったが、戸田のハートの強さには、たまに関心する。
俺もアイスを食べ始め、妙な視線を感じる。
「ねぇ、時計してたっけ?」
戸田がスマホの手を止め聞いてきた。
「講習の時は最近するようにしてるんだ、講習会場に時計がないし、時間を測って勉強出来ないから、学校でもいつも見ているよ」
「ふーん、何でそんなに時間が気になるの?」
また、感情が全くないサイボーグのような感じで俺にグサグサと突いてくる。こんな質問をしてくるのは、俺の人生ではまず、戸田しかいない。
「時間で動いたほうが効率良いし、無駄が少ないから……」
時間を決めて動かないと、ダラダラ時間を浪費してしまい、あっという間に終わってしまう。俺は物凄く耐え難い。高校受験の時、計画を立てたは良いが、計画通りに事が進まな過ぎて勉強が捗らず、第一志望の高校に落ちてしまった経験がある。要因はきちんとしたスケジューリングが、出来ていなかったと思っている。
「何か、楽しくない」
戸田を見ると遠く見つめたまま、微動だにしない。怒っているのか? ひいてしまったのか? 戸田が今何を考えているのか表情からは全く読めない。
「どうした?」
「別に、そんなに気を張っている必要あんのかなって」
溜息交じりで、何なら呆れているようにも見えた。
今の俺には何を言われても耳を傾ける余裕はない。ましてやそんなこと言われたくもない。
「俺は、戸田と違って余裕でやれるキャパないから」
「えっ?」
戸田の声のトーンが急に変わった。
「本気で言ってるの?」
かなりヤバイ……、戸田の地雷を思いっきり踏みつけ、起爆させてしまったと直感的に感じた。
「ごめん」
反射的にこれは謝らなければならならいと俺の第六感が言っている。
「……」
戸田は俯いて、自分の靴を睨みつけたまま何も答えない。
公園の街頭に灯り着いた。そろそろ日も暮れてきたきたし、今日はお開きだ。これ以上一緒に居ても気まずくなるだけだから終わりにしよう。
「そろそろ、暗くなってきたし帰ろう?」
「そうだね」
「じゃあ、またね」
そう言うと歩いて行ってしまった。その背中は何だか今にも壊れてしまいそうな小さく見えた。振り返れと心の中で念じてみたが、こちらをもう一度見ることはなかった。