プロローグ
宜しくお願い致します。
「聞いてるのか!」
俺は、担任の先生から説教をされている。
清々しい1年のスタートが最悪という形となった。
なぜこんなことに――――、すべては「あの女」のせいだと思っている。
あれは、3年生に進級して間もない、桜の花が満開の季節だった。
「この公式は大切なのでしっかり覚えるように」
数学の授業だった。丁度良い気温で、ただでさえ眠気がくるのに、黒板には呪文のような文字が並んでいて、追い打ちを掛けて瞼を閉じようとしてきた。
そのとき、窓からヒラヒラと、1枚の花びらが舞ってきて、前の席に座る女子生徒の髪に降り立った。
彼女は授業に集中しているせいか、黒板とノートを交互に見比べ気付く様子はない。
新学年がスタートして、楽しいものにすると思っていたし、ここは教えてあげようと思った。
俺はそっと声を掛けた。
「戸田さん」
彼女の肩がこちらに振り向いた。
髪は肩まで伸びていて、絹のようなサラサラとしたストレートヘアー、茶色に染まっている。ワイシャツのボタンは第2まで開いていて、鎖骨が見えていた。自分とは真反対な、リア充女子だ。
「なに?」
彼女は訝しげにこちらを見てきた。
「髪に、はな......」
「あっそ」
彼女はすぐに肩を戻し、立ち上がった。
「先生、後ろの席から授業を妨害してきます」
「えっ」
俺は呆気に取られてしまった。良かれと思ってした親切が、仇となって返ってきた。
「村瀬、授業が終わったら職員室にくるように」
あらぬ疑いで先生に呼び出しになった。
彼女をジッと見るが、淡々とペンを動かし、何も無かったかのように授業を受けていた。
(なんだよ! まったく意味わかんね!)
しばらくして、呆気に取られていたのが、落ち着き、徐々に怒りがこみ上げてきた。授業中に話掛けて、教えようとしただけで、この仕打ちはない。ありえない。これからは、『あの女』に話掛けるのは控えて、関わらないようにしようと俺は誓った。